第103話 勝敗の行方


――カコン カコン バイーン


 点数差はすでに倍以上ついている。

もしかして、俺達負けるんじゃ?


 杏里と杉本ペアはうまく互いをフォローし、壁の反射を利用しながらこっちの隙をついてくる。

それに対し、俺と高山は直線的にゴールを狙っているので、二人のどっちかにゴール直前でパックがはじかれてしまっている。

前かがみになり、前傾姿勢になっている二人の手さばきは非常に上手い。


「高山、このままだと負けるぞ?」


 小声で話しかける。


「いや、天童よ。良く考えろ、そしてその目しっかりと見るんだ」


 点数と女子二人の動きをよく見ている。

良く考えた結果、負けそうである。


「良く考えたが、やっぱり劣勢じゃね?」


「っふ、天童よ。大人になれよ。点数じゃないだろ? この勝負は」


 意味が分からない。だって、そろそろゲームセットだぜ?

何とかしないと負けるよ? わざと負けろって事か?


「相手に花を持たせるのか?」


「違う。あの二人の動きをよく見るんだ。いいか、よく見ろ」


 よく見る。パックが動くたびに、二人もそれに合わせて動く。

うん、普通に防衛されていますね。それで、これからどうしろと。


「何を見るんだ?」


「いいか、今の時点で俺達はすでに勝利している。二人の動きを感じるんだ。そして、その眼で見ろ、二人の胸元を」


 ……。あぁ、悪かった。俺が悪かったよ。

高山はぶれないな。何を真剣に見ているかと思えば、そういう事ですか。


 前かがみになっている二人は確かにチラチラ見え隠れしている。

特に杉本の方は揺れている。そこに気が付いた高山は普段からそんな事を考えているのか?


「ぶれないな」


「あぁ、俺はいつでもぶれない。自分に正直に、真っ直ぐにが信条だぁ!」


 と、高山は力いっぱいパックを弾いた。

それに合わせ、女子二人の動きも激しくなる。


 真剣な眼差しの女子二人。そして、高山。

もしかして、俺だけ冷めているのか? 俺も高山と同じように熱くなれと。


 無理っす。すまん高山。俺にはそこまで感情を出すことはできない。

女子二人に弾かれたパックはその勢いのまま俺と高山の隙間を抜いていき、ゴールを決められてしまう。


 喜ぶ女子二人にほっこりしている高山。

ある意味尊敬するぜ。お前はやっぱりすごい奴かもしれない。


「勝ったぁ! 男子二人に勝ちましたよっ」


 喜んでいる杉本、そして互いに手を取り合ってい杏里も喜んでいる。

高山も満足そうな顔だ。そうですね、満足しましたか?


「いやぁー、負けちまったな! よし、優勝景品としてアイスでもおごってやるよ」


 ゲームセンター内の自販機に移動し、みんなでアイスを食べる。

俺は自分と杏里の分を、高山は杉本の分を出す。


「二人ともなかなか強かったな! な、天童」


「あ、あぁ。強かったな」


「エアホッケーは初めてしましたが、面白いですね。また今度しましょう」


 杏里も楽しんだようだ。それはそれで良かったな。

アイスを食べている女子二人を高山は真剣に見ている。


「アイス食べ終わったらどうしようか。ゲームする? それとも街でもぶらつく?」


 さて、それなりに楽しんだし、どうしようか?


「俺はどっちでもいいけど、二人は?」


「杏里と服見たいかも。なかなか二人だと一緒に来れないし、男の子の反応も見てみたいし」


 随分積極的な意見を言う杉本。

こんなに話をする子だったかな? それともこれが素の方なのか?


「私はそれでもいいよ。彩音と服見るのもいいけど、天童さんと高山さんを付き合わせてもいいのかしら?」


「もちろん! 今日は二人に合わせるぜ!」


 元気のいい高山。

きっと高山は、二人の買い物に付き合うのも楽しいと感じるのだろう。

だけど杏里は行ったり来たり、悩む時間の方が長からなー。


 アイスも食べ終え、ゲームセンターを後にする。

表通りに出て、アーケードをしばらく歩いて行くと、不意に声をかけられた。


「てめぇ! やっと見つけたぜ!」


 マジですか。ここにきて見つかるとは。

偶然とは恐ろしい……。


 俺を先頭に、後ろには高山、杏里、杉本がいる。

そして、運の悪い事にその全員が俺の連れそいだとばれてしまっている。


「お、女が一人増えてるぅー。超ラッキー、こっちも男二人! ぴったりじゃん!」


「なんだ? お前ら?」


 高山が一歩前に出て、俺の隣に仁王立ちしている。

杉本は杏里の後ろに隠れ、杏里は杉本をかばうように立ちふさがり、男二人を睨んでいた。


「お、男も増えてるな。なんだ? ん? やんのか?」


 見た感じ俺達よりも少し年上、それに体格もいい。

二対二でも難しい。でも、この状況で全員が逃げられるとは思わない。

どうする? 交番に駆け込むか? でも、交番ってどこにあるんだっけ?


「その喧嘩、買ってもいいのか? 幼少の頃からずっと空手をしてきたから、手加減とかしないぜ?」


 まじか! 高山は空手を習っていたのか?

高山はポケットからハンカチを一枚取り出し、自分の拳に巻き付けはじめた。

そして着ていたジャケットを脱ぎそのまま杏里に渡す。


「悪い、ちょっと持っててくれるか?」


 ジャケットを脱ぎ、戦闘態勢に入る高山。

おいおい、街中でまさか乱闘騒ぎを起こす気か?


 向き合いながら互いに殺気を放つ高山と男二人。

そして、蚊帳の外になってしまった俺。


 あ、もしかして俺って戦力外なのか?

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