第102話 ずっと仲良し
心臓がバクバクしている。声をかけたら後には引けない。
男が振り返る。負けるな、俺の心!
「お、なんだ天童か」
目の前には知った顔、スーツを着込んだ高山だ。
ドキドキした俺がバカみたいじゃないか!
「高山……。なんだその格好は?」
黒いスーツを身に纏った高山はまるでチンピラのような服装だ。
どうしてそんな格好になったんだ? もっとラフな格好でいいだろ?
「え? だって大人っぽい服でって言ったじゃん。スーツしかないだろ?」
それにしても浮いていないか?
それに頭に付けているサングラスとか絶対にいらないだろ?
「いや、別にスーツじゃなくても……」
俺の後ろから少し遅れて杉本が駆け寄ってくる。
「て、天童さん……。もしかして、高山君だって分からなかった?」
えっと、はい。そうですね。少し気が動転していたんでしょう。
杉本の件もあるし、正直普段と違う服装だと、高山という事には気が付きませんでした。
「天童さん、待ち合わせの時間には間に合っていますが、後で説明してくださいね?」
杏里の冷たい目が俺に向けられる。
あぁ、先に待っていると杏里に言ったのに後から来てしまった。
大変申し訳ありません! こっちにも事情があったんです!
「そ、その話は後でゆっくりと……」
少しだけ腰の引けた俺は集まったメンバーを見渡す。
普段は見慣れない私服のメンバー。
高山も気を使ったのか、スーツを着ているがそれなりに見える。
しかし、高山の目線はさっきから杉本さんにくぎ付けだ。
杉本も高山の目線に気が付いたのか、少しだけ杏里の陰に隠れようとしている。
そんな杏里も今日の服装は可愛い。
「彩音は今日コンタクトなんだね。それにその服装、可愛いねっ」
杏里は杉本の手をとり少しはしゃいでいる。
真に微笑ましい光景だ。それに引き替え、高山は浮いている。
ま、今日一日だけだし、気にしないようにしよう。
「て、天童」
高山が俺の肩に手をかけ、若干涙目になりながら訴えかけてくる。
「何だ? 目にごみでも入ったのか?」
「いや、そうじゃない。今日映画に来れて、テスト頑張って良かった!」
感激の涙らしい。良かったな、俺もみんなで映画に来れてよかったよ。
「これも、高山がチケットを手に入れたからだな。良かったな」
高山の方を軽くたたく。
「あぁ、良かった。クラスの女子と映画……。しかもディナー付き……。間違いなく俺はいま乗っている」
何に乗っているかは分からない。
が、確かに高山の言うとおり、最近毎日を楽しく感じている。
少し前の俺には考えられないほど、色々と行動している気がする。
「杏里の服も可愛いよっ。ねぇ、これからどうする? 少し時間あるよね?」
映画が始めるまで少し時間はある。
少し街でもぶらつきますか。
「あのさっ、みんなで写真とろーぜ! そこのゲーセンに最新機種が入っているんだ!」
よく調べている高山。この調子だと本当に今日のプランニングをしているのかもしれない。
勉強しながらよく考えていたのもだ。
「いいねっ! みんなで撮ろうよ! 杏里もいいでしょ?」
「そうね、みんなで撮りましょうか?」
俺達は四人固まってゲームセンターに向かって歩き出した。
そして、高山お奨めの機種に四人で入り、写真を撮る。
さっき杏里と撮った機種と同じだ。
「よーし、金いれるぞー」
ボスが気前よくコインを四枚入れてくれた。
流石はボス、良い奴だ。後でちゃんと半額渡さないとね。
『どのモードにするー?』
やっぱり聞いてきたモード選択。さて、今回は何モードにするんだ?
「やっぱ、これでしょ!」
高山がオーバーリアクションで画面をタッチする。
『仲間モードにしたよっ! 早く並んでー』
俺と高山は後ろに立って、肩を組む。
少し前に杏里と杉本。少しだけ前かがみになって、互いに軽く抱き合っている。
「杏里、ほら手を出して」
杉本が左手を、杏里が右手を出し、ハートマークを作っている。
その仕草が、画面に映っている二人の姿が可愛い。
その後ろに俺と高山。この画面見る限り俺達いらなくね? と思ってしまった。
『それじゃ、撮るよー。準備はいいかな?』
――パシャ
数枚写真を取り、次はお絵かきタイムだ。
ペンは二本しかないので俺と高山はお絵かき中の二人を後ろから眺めている。
「杏里はどれ書きたい?」
「私はこっちを書くから、そっちは彩音が書いてね」
何とも微笑ましい光景である。
そんな二人を高山も生暖かい目で見守っている。
俺の耳元で高山がそっと囁く。
「天童。俺、もしかしたら今、幸せかもしれない」
「そうだな。幸せかもしれないな」
出てきた写真を四等分に切り、それぞれの手に渡った。
映った写真は俺達四人。そして、そこに書かれたメッセージに心惹かれた。
『ずっと仲良し!』
この丸文字はどっちの字なんだろうか?
俺達四人はこの先もずっと仲良く、学校生活を送る事ができるのだろうか?
高山の言っていた幸せな時間は続くのだろうか?
そんな事を考えながら切り取られた写真を俺は胸のポケットにしまい込んだ。
「よっしゃ! 写真もとった! 次はあれやろうぜ!」
高山の指さす方にエアホッケーがある。
四人でプレイするならいい選択だ。
「チーム分けどうしますか?」
男女で分けるか、男女ペアで別れるか。
公平に行くなら男女ペアでいいかと思った。
「よし、俺は天童と一緒に組むぜ! 男女対抗戦だ!」
「良いでしょう! 負けませんよ!」
すっかりと高山と杉本のペースになってしまった。
俺と杏里の意見は言う前に消されました。
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