第101話 漫画のあらすじ


 大型ゲーム機に身をひそめ数分経過。

どうやらうまくやり過ごせたらしい。


「さて、多分もう大丈夫かな?」


 俺はカーテンの隙間から外を覗き、辺りを見渡した。

多分さっきの奴らはいない。


「あ、あのっ。少しだけ相談してもいいですか?」


 杉本が俺の方を見ながら訴えてきた。


「少しなら大丈夫じゃないか?」


 俺はカーテンを閉じ杉本の隣に再度座り直した。

真剣な眼差しを俺に向け、話しかけてくる杉本はものすごい真面目な顔つきだ。


「あ、あのね。私、どうしても天童さんに聞きたい事があって」


「何だ? 俺に聞きたいことって」


「私さ、今漫画を描いているって話したことあったでしょ?」


 確か自習室でそんな事を話していたな。


「実はどうしても結末が決まらなくて」


 まさかとは思うが、今回のテスト期間中に勉強をしないで書いていたって事はないよね?


「そうか、そろそろ完成するんだな。それで、俺に何を聞きたいんだ?」


「ありがとう。じゃぁ、簡単にあらすじを話すね――」


 杉本は真剣な眼差しで俺に今書いている漫画のあらすじを話し始めた。


 主人公は小学生の女の子。その子には仲が良く、ひそかに想いをよせている男の子がいた。

しかし、家庭の事情で引っ越すことになってしまい、別れることになる。

お互いに今度また会う事があれば、また友達になろうと約束をして。


 時は流れ高校生になる。少女はその思い出を忘れることなく、新しい高校生活を始めた。

新しい学校、新しいクラスには何の偶然か、その思い出の男の子のがいた。

しかし、男の子は女の子の事を忘れ、しかも別に好きな人がいるという状況だった。


 同じ学校で自分の気持ちがふらつく中、その女の子もまた他の男の子に恋をしてしまう。

主人公の女の子は、昔の想いと今の想い。どちらを選択するのか、自分の心の中で葛藤する。


「ざっくりと、こんな感じなんだけど、どう結末を迎えたらいいと思う?」


 女の子が主人公で、昔の想いを寄せていた子と一緒になるのが王道な気がする。

しかし、その男の子は別に好きな奴がいると言う事は、その男の気持ちがどうなのかを知る必要がある。

それに、主人公も別に好きな人がいると言う事は、主人公は今の想いを自覚していると言う事だ。


 結局、主人公は誰とどうなりたいのか? そこがポイントになると思うんだな。

でも、告白したからって、成功するとは限らない。

まぁ、漫画の話だしもちろんハッピーエンドにはなるから心配しなくてもいいか。


 結論。男女関係はややこしい!


「難しいな。俺は女じゃないから、女心は分からん。仮に俺が主人公だったら、過去にケリをつけて、自分の新しい道を突き進むな」


「思い出の男の子は無い事にするの?」


「無い事にはしないさ。思い出だろ? でも、自分の中でふわふわしているのであれば、過去に決着はつけないと。そのままずっとふわふわしていくのか?」


「過去に決着を付けるのか。男の子のっぽい展開だね。ありがとう、答えが出たよ」


 パッチリとした杉本の目は、真っ直ぐに俺を見てくる。

そう、何かを決意した奴の目だ。杉本が打ち込んでいる漫画も、完成したら是非見せてもらう。

きっと、良作に違いない。というか、杉本はどのくらいの画力を持っているのだろうか?


「参考になったか? この手の話なら姫川さんや高山にも聞いてみたらいいんじゃないか?」


「そ、そうだね。いや、なんとなく天童さんに聞くのが一番かなーって」


 そうれはどういう意味で言っているのだろうか?

杏里は恋愛とは無縁そうに見える? 高山はチャラく見えるからか?

とはいえ、同じ世代の男女だ。恋愛感覚は似たり寄ったりだろう。


「今度あの二人にも聞いてみろよ」


「う、うん。そうする。映画終わったら、食事に行くでしょ? その時にでも聞いてみるよ……」


 膝の上に乗せている杉本の手が少しだけ震えている気がする。

どうしたんだろうか? 冷えたのかな?


「どれ、そろそろ待ち合わせ場所に行くか」


 時計を見るとそろそろ待ち合わせ時間だ。

すっかりと杉本と話しこんでしまった。


「そうですね。もしかしたら、もういるかもしれませんし」


 カーテンを開け、辺りを見渡し安全を確認する。

右よーし、左よーし。よし、行きますか。


 先に出た俺は振り返り、杉本に手を差し伸べる。

俺の手を取り杉本は腰を上げた。


「あ、ありがとう」


「いえいえ、どういたしまして」


 さっきは慌てていて気が付かなかったが杉本の手も杏里と同じくらい華奢で細い。

女の子の手はきっとみんなこんな感じなんだろうなと思いつつ、すぐにその手を離した。


 二人でゲームセンターを出て、再度待ち合わせ場所に向かう。

遠目に水時計が見えてきた。その周りは待ち合わせ場所によく使われるので多くの人が立っている。


 えっと、杏里と高山はいないかな?

あ、杏里がいた。失敗したな、先に杏里が待ち合わせ場所についてしまった。

お、俺の計画が……。


 しかし、杏里の目の前には黒いスーツを身に纏ったガラの悪そうな男が杏里に声をかけている。

なんで今日はこうなんだ。まさか杏里までナンパされているのか?

いや、もしかしたらお仕事の紹介とか受けているのかもしれない。


「杉本さん、姫川さんが絡まれている。俺はちょっと先に行くね」


「え? 杏里が? あ、ちょっと、待って。天童さんあれは――」


 杉本をその場に残し、黒服に向かって軽く走り出した。

一人くらいだったら俺にも何とかできるかもしれない。

いざとなったら大声で騒いでやる。俺は戦闘タイプではないしな。


 黒服の後ろに立った俺に杏里が気が付いた。

待っていろ杏里、この状況俺が打破してやる。

一人の女位、守れるところを見せてやるぜ!


 音を立てないように黒服の後ろに立ち、ゆっくりと肩に手を乗せる。

振り向いたら、それがお前の最後だ! と言う気持ちを持ち、高鳴る心臓を押さえながら声をかける。


「おい、俺の連れに何しているんだ?」

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