第97話 ゲームセンター
「ここがゲームセンター……」
杏里と街にあるゲームセンターに来ている。
杏里自身ゲームセンターは初めてのようで、店に入る前からそわそわしていた。
「どれ、何からする?」
杏里の手を取り、早速店内に入ってみる。
店の中は夕方と比べると人がまだ少なく、ある意味やりたい放題だ。
「お、おすすめは何ですか?」
おすすめ。そんなこと言われても、シューティングとか格ゲーとかは一人プレイが多いし、俺もそこまでうまくはない。
それに杏里を満足させられるような技術はあいにく持ち合わせていない。
「そうだな、何か二人で同時にプレイできるやつにでもするか」
同時プレイと言えば、カーレース、ガンシューティング、それに太鼓があるな。
あとは、ダンス系の物もあるが、何かと目立つ位置にあるので、お勧めはできない。
ド派手な見た目に、大音量の音楽、そして、その中央で手足を動かしながら踊るなんて俺には無理です。
杏里の手を引き、とりあえず二人同時プレイのカーレースができる機種にしてみた。
「とりあえずこれやってみるか」
コインをいれ、杏里の隣に座る。
オートマ設定にすれば杏里でも簡単に運転できるだろう。
ちなみに俺もオートマにしておく。
画面が切り替わり、車種選択画面に。
画面をジーと眺めながら杏里はハンドルを右に左に回しながら車種を選択している。
「どれがいいんですかね? みんな同じに見えてきました」
確かに見た感じはほぼ似たようなスポーツ系の車。
下のパラメーターを見ると大分変って来るが、杏里から見たら同じに見えるだろう。
「じゃぁ、その黄色のスポーツカーでいいんじゃないか?」
俺が選択したのは加速重視の車種。
恐らくすぐにぶつかったり、コースアウトすると思うから、最高速度重視やハンドリングが難しい車種はやめておいた方が無難だろう。
簡単に操作説明をし、ベルトをしっかりと装着してもらう。
運転前にはシートベルト! 忘れてはいけない。
俺も良く使う車種を選択し、いよいよスタートとなる。
っふ、杏里さん。俺はそこまでうまくはないが、初心者ではない。
今日は勝たせてもらうぜ! と、内心大人げないとはわかっていても、勝ちたいと思ってしまう。
画面の中でカウントダウンが始まる。
そしてスタート! アクセル全開で走り始めた画面の隅に、加速重視の杏里の車が見える。
次第にその差は広がり、第一コーナー手前では杏里の後ろについてた。
ここからが勝負ですよ! コーナーを上手く曲がり終えた頃には、杏里の車は俺の後ろについている。
では、さらばだ! コーナーを出た後は、またアクセル全開。ここで差をつけてやる!
画面上部のカウンターがそろそろゼロになる。
タイムアップだ。なんだかんだ言いながら、杏里はうまかった。
おおきなコースアウトもなく、きちんとブレーキを使いながらコーナーを曲がり、しっかりとハンドリングしていた。
たまに横目で杏里を見ていたが、運転している姿が初心者ぽくなく、しっかりとハンドルを握っていた。
しかし、コーナーを曲がるたびに体全体が曲がる方向へと大きく傾いている。
分かる。俺も昔曲がりたい方向に体を傾けていた。意味はないんだがな。
「なかなか面白かったですね。もう少しハンドルが重いと操作しやすいかもしれませんね」
何だかなー、と思いつつ次のゲームにトライ。
「次はこれだな」
二人分の太鼓とバチ。有名なゲームだ。
簡単に杏里へ説明を行い。早速プレイする。
ここでも勝たせてもらうぜ! 意気揚々とスタートするが、ここで予想外の出来事が。
杏里のバチ捌きが素晴らしい。左右の手に持ったバチがまるで生きているかのように舞い踊っている。
え? 元ドラマーですか? と言う位のバチ捌き。
懸命に太鼓をたたいている杏里の髪が時折揺れる。
その姿に見惚れてしまい、連続コンボがと切れてしまった。
「今度は私の勝ちですね」
杏里がバチを元の場所に置きながら、俺に向かって話しかけてきた。
「うまいんだな。ビックリしたよ」
「知っている音楽だと、分かりやすいですね。でも、こんなに太鼓を叩いたのは生まれて初めてですよっ」
笑顔で俺の腕に絡まってくる杏里。その瞳は輝いており、次のゲームにも期待しているようだ。
「よし、次はこれにしようか」
俺が次に選んだのはガンシューティングのゲーム。
密室で暗くなっているベンチシートに二人で座って、手元の銃で画面に映る敵や物体をひたすら打ち抜いていくゲームだ。
「こ、ここに入るんですか?」
「ん? あぁ、ゲームが始まればもう少し明るくなるよ」
恐る恐る杏里はベンチに座り、手元にあった銃を手にする。
始める前に簡単に説明し、互いをサポートしながら進めていくストーリーモードをプレイすることになった。
「では、これで照準を合わせて打ちまくればいいんですね」
「そ、簡単だろ。多分すぐに弾切れになるから、画面外に銃を向け打てば補充される。ま、やってみれば分かるよ」
数ある中でもガンシューティングは俺の得意とするゲーム。
しっかりとフォローさせてもらいますね!
ゲームがスタートすると早速画面が切り替わり、洋館の中に入っていく。
扉が開いた途端に中から犬が襲い掛かってきた。
「ほら、こいつらを撃ちまくるんだ」
「ど、動物を撃たなければいけないんですね……」
虐待とかはないぞ? 設定上こいつらは地球外生物で、侵略者だからね?
「ほら、早くしないと噛まれてライフが減るぞ」
杏里は銃を構え、襲ってくる犬を打ち抜いた。
撃たれた犬は派手に転がり、次第に消滅していく。
「こ、これはこれで、なかなか……」
杏里の手が若干震えている。もしかして苦手だったかな?
しかし、しばらくすると手の震えが止まり、的確に敵を打ち抜いていく。
そして落ちたアイテムもすべて回収し、ドンドン強くなっていく。
最終ステージへ入る頃にはオートマシンガンや防弾チョッキ、無限カートリッジなどフル装備になっていた。
俺だってフル装備だけど、杏里は本日初参戦ですよ? うまくないですか?
二人で何とかカバーし合い、ラストステージもクリア。
本日ハイスコアランキングのトップになった。
「杏里、初めてだよな?」
「初めてですよ。司君はきっと経験ありますよね?」
「まぁな。しかし、うますぎないか?」
「初めは躊躇しましたが、気持ちを切り替えたら楽しくなりました」
ハイスコアランキングの名前入力時に杏里が自分の銃で文字を打ち抜き始めた。
ミスはなく、そのまま最後まで打ち続ける。
あ、もしかして俺よりも正確に打てるようになっていないか?
ランキングには『ティーアンドエイ』の文字が。
「つかさあんどあんり、ですね。今日はこの記録、ずっと保持されるんじゃないですかね?」
「多分な」
笑顔で銃を撃っていたあんりは、すっかりご満悦。
俺も中々楽しかった。しかし、杏里はゲームをしないだけで、センスはあるんじゃないか?
すると杏里は銃を俺の胸に向けて構えてきた。
「どうした? もう一ゲームするか?」
「バン! 司君の心は、私に撃ち抜かれたかな?」
まいったね。そんな事言うんですか。
俺は頭をポリポリかきながら杏里に向かって答える。
「あぁ、打ち抜かれた。即死だ」
二人で少し笑いながら密室を出る。
すると杏里は俺の袖を引っ張り、とある機械に向かって指を指している。
あれは写真を撮って直ぐにシールを作ってくれる機械。
写真か、記念に撮るのも悪くないな。
「あれ、一緒に撮らない?」
「記念に撮りますか」
こうして今度は眩しいくらい明るいカーテンの中に入って行った。
さっきの暗いベンチシートのゲームと比べると真反対の明るさだ。
写真と言えば、母さんから後で送ると言った写真がまだ送られてきていないな。
あのまま封印してくれるといいのですが……。
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