第94話 意地悪な女神


「全員結果はいきわたったなー。それでは続いて班分けについて話を始める」


 テストの結果もそれなりに、高山と話す時間もなく席替えになる。

誰と組まされるんだ? できればいつものメンバーで組んでほしいが、そううまくいくとは限らない。


「第一班。姫川、天童、杉本、高山」


「第二班。遠藤、山本、加川、宮内」


 俺は耳を疑った。まさに奇跡だ。

まさかこのメンバーで組めるとは、何という奇跡!

運命の女神は俺に微笑んだのだ!


「先生! 質問があります!」


 先生の班発表最中に割って入ってきたのは遠藤だ。

俺の後ろの方で高々に手を上げている。


「どうした遠藤。何か質問か?」


 席を立った遠藤は担任の先生に向かって、やや大きめの声で話し始めた。


「俺は今回総合で二位の成績でした。であれば、一位の姫川さんと同じ班になるのではないでしょうか?」


 言っている意味は誰しもが分かる。

一位と二位のペアだ。先生に言われれば誰しもが納得するだろう。

だが今回は、そうはならなかった。


「ん? だったら遠藤は姫川に何か教えることはできるのか?」


「教えると言いますと?」


「姫川、遠藤、二人のクラス成績を皆の前で話してもいいか?」


「私は構いませんが」


「俺も問題ない」


 何やら雲行きが怪しい。

クラスメイト全員が息をのんで杏里と遠藤を見守っている。

ここで口をはさめるのは成績上位者のみ。ようは、俺しかいない。


 でも、話す事とか特に無いんですよね。

先生の言った班分けで十分満足してしまっているので。


「姫川は二科目満点でクラス順位はそれぞれ一位。他三科目は全て二位の成績だ」


 クラスの中がざわめく。そりゃそうだ。

二科目満点でもすごいのに、他の科目は全て二位。

どれだけ平均点高いんですか?


「では、遠藤。クラス順位一位になっている科目はあるか?」


 遠藤に視線が集まる。


「あ、ありません……」


「ようはそういう事だ。遠藤と姫川を組ませた場合、遠藤は姫川の足を引っ張る。姫川は教えるだけになってしまうだろ?」


「では、姫川さんと同じ班になったメンバーは……」


「そう、遠藤の予想通り。姫川の科目別で一位になっていない各科目のクラス一位のメンバーだ」


 お、まさかとは思ったがそんな事になっているのか!

ん? と言う事は杉本も高山も何かしらクラスで一位になった科目があるという事か!


「教えるだけでは不公平になってしまうだろ? 姫川にも教えられる奴をメンバーに入れなくちゃな。これで理由がわかったか?」


「……はい」


 小声で遠藤は答え、席に着く。

しかし、その目線は俺を睨んでいる。

やめろよ、俺は争う気なんてさらさらないぞ?


「あー、では続きを話すぞー。第三班――」

  

 先生の班発表が終わり、それぞが席を移動する。

席移動の後は鐘がなるまで班メンバーとの交流時間だ。


 俺の隣に杏里。後ろに高山。杏里の後ろで高山の隣に杉本。

いつものメンバーが固まった。無性に落ち着くのは、ここ最近このメンバーで行動していたことが多いいからだろう。


「っよ。学年一位の姫川さん。これからよろしくっ」


「杏里と一緒の班になれて良かった! すっごく嬉しいよ!」


 二人とも喜んでいる。俺だって嬉しい。

なんせ隣に杏里がいる。いつもは遠目に見ていた杏里が隣にいるのだ。


「俺も、みんなと一緒の班になれて嬉しいよ」


 真顔でみんなに伝える。俺の本音だ。


「珍しいな、そんな顔で話すなんて。何か心境の変化でもあったのか?」


 あぁ、あったさ。 

杏里と出会って、高山と話して、杉本に助けられ。


 俺は変わったかもしれない。いや、変わったと思う。

いつからか、一人でいいと思わなくなった。


「一年間一緒にがんばりましょうねっ」


 笑顔でみんなに話し始める杏里。

この結果になったのは、全て目の前にいる女神のおかげかもしれないな。


「姫川さん。もしかして、こうなる事予想してたりした?」


 気になって聞いてみる。

家で勉強した時も要点をまとめてくれたり、詳しい説明をしてくれたりした。


 勉強会の時も杉本と高山の勉強を杏里は見ていた。

特にそれぞれが得意な科目については、より一層力を入れていたと思う。


「さぁ、どうでしょうか? みんなの努力の結果だと思いますよ?」


 微笑んでいる女神は意地悪だ。

きっとこうなる事を予想して、それぞれに科目別で集中的に教え込んでいたに違いない。


「そうだぞ! 俺達のチームワークでつかんだ結果だ!」


「でも、一位になった科目以外は結構悲惨なんですけどね……」


「そうね、また時間を作って勉強会でもしましょう。そのための新しいグループなんですから」


 俺達はこれからまた一緒に過ごす時間が多くなる。

俺と杏里の事を話す時は近い。受け入れてもらえるだろうか。


 そして、すぐ近くに俺を睨んでいる男がいることも忘れてはいけない……。

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