第93話 テストの結果発表


「姫川杏里、前に。今回もいい結果だったな」


 ですよねー。前回のテストも学年で一位だったので、今回も一位になりますよね。

勉強時間も俺と同じくらいだし、早々その差は埋まらないですよね。

分かっていました。わかっていましたが、悔しいです!

今度はもっと対策して、杏里を見返してやる……。


 そんなモンモンとした気持ちの俺だが、杏里は堂々と席を立ち、教壇に向かう。

表情は笑顔でもなく、無表情だ。

何となく王者のオーラを感じ、見惚れてしまう。

かっこいいな……。


 先生から用紙を受け取り、そのまま自分の席に戻った後は、結果用紙をまじまじと見ている。


「姫川は学年でも一位だ。みんな姫川のようになれとは言わない。でも、目標を持って、各自努力してくれ。天才はそうそういない。一般人がほとんどだ。だが、九十九パーセントの努力と――」


 あ、それ知ってる。九十九パーセントの努力と、一パーセントのひらめきでしょ?

名言ですからね。


「一パーセントのきらめきだ。姫川も努力している。そして、みんなも姫川のように煌めいてくれ」


 ……。はい? 煌めくって……。各自輝けと。

クラス全員がシーンとしている。きっと先生の意味が理解できないからだ。

流石に今回は俺も良くわからない。


「わかったな!」


「「はい!」」


 生徒一丸で返事をする。が、本当に理解した奴は何人いる?


「では、次。総合二位。遠藤拓海(えんどうたくみ)。前に」


 遠藤が二位か。確かに前回の順位は一桁台だったと思う。

まぁ、順当と言えば順当だな。


 遠藤はさわやか系のイケメンだ。

このクラスの女子にも結構もてている。

で、勉強もできるし、バスケ部で一年レギュラー。

モテない訳がない。だが、俺との接点はない。もちろん話したこともないしな。


 俺の横を通り過ぎ、スタスタと教壇に向かっている。


「惜しかったな。あと少しで姫川に並ぶ。次回は一位を狙って頑張ってくれ」


 結果用紙を手に持ち、自分の席に向かう遠藤。

ふと、遠藤と目が合う。そして、若干だが、頬がいつもよりつり上がっている気がする。

何だこいつ? いい点とったからって俺に何か言うのか?


 だが、俺に声をかける訳でもなく、ただ通り過ぎて行ったと思った。

しかし、遠藤は俺の机に小さく丸められた紙をサッと置いていった。

なんだ、ごみとかおいて行くなんて、やな奴だな。


「次。総合三位、天童司。前に」


 何でごみを置いて行ったんだ? チラッと見たが何か文字が書いてある。

ま、まさか恋文? 申し訳ないが俺には杏里がいる。

それに、俺は男子よりも女子が好きです。ノーマルなんです。

ごめんな、遠藤と付き合う事は出来ない。


「天童。聞こえてるかー」


 俺は折りたたまれた紙を広げてみる。

やっぱり中には何か書かれていた。


『姫川さんは渡さない』


 遠藤、どういう意味だ? 渡さないって、そういう意味でとらえていいのか?

紙を手に持ち、じっくりと読んでいると後ろの高山が俺の肩を叩いてくる。

なんだ、今忙しいんだ。後にしてくれ。


「おい、天童。聞こえてるか? 天童?」


「聞こえてる。ちょっと今手が離せないんだ」


 遠藤は杏里を狙ってるのか? それとも杏里と何か関係を持っているのか?


「天童司! 聞こえてないのか! 結果用紙黒板に張り付けるぞ!」


「は、はいっ! 聞こえてます!」


 教室からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

どうやら俺は何かしてしまったらしい。

教壇に立っている先生もなぜかややご立腹だ。


「いいから早く取りに来い。総合で三位だ」


 何だと……。総合で三位? 俺が?

それなりに勉強していたが、そこまでできていたのか?

内心ドキドキしながら俺は教壇に向かって歩いて行った。


「今回は随分勉強した感じだな。次回も頑張ってくれ」


「あ、ありがとうございます」


 俺は手に持った結果用紙を見ながら自席に戻る。

総合三位。俺が? クラスで三番目だが、杏里は学年で一位。

もしかして学年でも結構上位に食い込んだんじゃ?


「ヒュー、天童すごいな。ナデシコ、遠藤に続いて三位だって」


 俺が一番驚いている。確かに結果用紙を見ると平均点が随分上がっている。

一番力を入れた数学に関してはクラスで一位だった。


 え? クラスで一位? と言う事は杏里に勝ったのか!

勝った! 杏里に一科目でも勝てた! あは、やった、やった!


「やったぞ!」


 あ、声が出ちゃった。


「て、天童……。嬉しいのは分かるが、少しは静かにしてくれ。それとも教室から出ていくか?」


「す、すいません……」


 先生が怖い。再びご立腹になっておられる。

すいません、しばらく黙っています。


 それぞれが結果用紙を配られ、各自が自分の用紙を見ている。

杉本も高山も例外ではない。杏里も結果用紙をまじまじと見ている。


 俺も自分の結果を確認している。


数学はクラス一位だったが、他の科目は三位や五位。以前と比べても平均点が素晴らしく上がっている。

きっと勉強会や自宅での杏里と一緒に勉強したのが結果につながったんだな。


 早く放課後にならないかな。

高山に、ボスに早く結果報告しなければ。

だが、浮かれても居られない。遠藤からもらった紙。

そこに書かれていた『渡さない』の文字。


 その意味はいったい何を意味しているんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る