第92話 テストの始まり


「ホームルーム始めるぞー」


 いよいよテストが始まった。今日、五教科のテストが行われる。

今までそれなりに勉強はしてきた。特に数学は自信がある。

杏里との約束、ボスとの取引。自習室を借りてくれた杉本の期待にも応えなければならない。


 いままでのテストとは事なり、結果を出さなければならない。

少しだけ緊張するな……。


「さて、以前からテストを実施する事は伝えていた。テストの結果でこのクラスの班分けを行う。ちょうど男女それぞれ十六名、計三十二名いる。結果に伴い、男女二名ずつの班を作り、一年間その班で行動してもらう。班は特例を除き、こちらで決めるので、各自良い結果を出すように頑張ってくれ」


 テストの結果により、班が決められる。この学校ではお馴染みのシステムだ。

点数により、互いがフォローし、学力向上の為グループが作られる。

そして、その班は一年間継続される。この勝負、負けられない……。


「五時間目まではテスト。六時間目は結果発表と席替えになる。では、生徒諸君、持っている力を存分に出してくれ。あー、それと、これはテストとは関係ない話なんだが――」


――キーンコーンカーンコーン


「……。では、ホームルームは以上だ。無いとは思うが、カンニングとかするなよ?」


 いつもの脱線小話は無かった。さて、いよいよこの時が来たか。


「て、天童……」


 若干元気のない高山が声をかけてくる。


「どうした? 胸でも痛くなったか?」


「いや、胸は痛くない。昨日徹夜したから眠くて眠くて……」


 まさかとは思うが、テスト中に寝るなよ?

とは言うものの、俺も朝方まで勉強していたから眠いといえば眠い。

杏里も付き合わせてしまったし、下手な点数は取れないな。


「ま、テストと言っても全部マークシートだから最悪適当にマーキングすれば、赤点にはならないんじゃないか?」


「そんなこと言うな……。せめて一科目だけでもナデシコよりも点数を取らないと。それに杉本にも悪いし」


 ん? 何か違和感を感じた。気のせいか?


「杉本さんのおかげでゆっくりと勉強できたしな。感謝しなければな」


「だろ? 今日の為に彼女はわざわざ朝一で鍵を確保してくれたんだ。その恩を返さなければ」


 なんだかんだ言って高山も勉強していた。

きっと悪くない結果をたたき出すような気がする。

俺もそれなりにしてきた。やれるところを見せなければ……。


――ガラララララ


 担任ではない先生が教室に入ってくる。


「みなさぁん、おはようございますぅ。それではぁ、テストを始めますねぇ」


 何だか緊張感に欠ける声を出す先生。

世間ではおっとり系と言うのか、天然系と言うのかは不明だが、その行動すべてが遅い。

が、見た感じフワッとした可愛い系の先生なので男子生徒には人気がある。


 先生は問題用紙と回答用紙を配り始め、時計を見ている。


「ではぁ、問題用紙の一ページ目に書いてある注意事項をしっかりと読んでぇー、間違えないように答案用紙に記入してくださいねぇー。では、始めてくださぁーい」


 一斉にプリントをめくる音が教室内に響く。

横目で杏里を見るが、いつもと同じように凛とした真面目な顔つき。

いつも髪を結ばないでストレートにしているが、今日は珍しく髪を結んでいる。


 普段は見えないうなじが、その首元がきれいに見えている。

杏里もやる気十分だ。だが、俺にも譲れないものはある。

杏里、今日は勝たせてもらうぜ!


 勢いよくプリントをめくったその勢いで、机に乗っていた消しゴムが飛んで行った。

仕方がないので手を上げ、先生に消しゴムを取ってもらう。


「天童さん、はい消しゴム。落さないように、注意してくださいね」


 は、恥ずかしい。しょっぱなからやってしまった。

数人のクラスメイトが横目で俺を見てくる。や、やめて下さい……。


 気を取り直し問題用紙を見ながら、回答用紙にマーキングしていく。

一時間目は英語。正直なところ得意ではない。

が、ここ数日は杏里にコツを教わってそれなりに勉強してきた。

少なくとも前回の点数よりは上を狙えるはずだ。


 みんなで行った勉強会の、杏里と一緒に勉強した時間を無駄にはしない。

結果を、結果を出してやる……。


――キーンコーンカーンコーン


「はい、そこまで! 後ろから回答用紙を前に回せー」


 教壇にいるのは白衣を着た先生。

すらっとした、なかなかのイケメンメガネ先生だ。


 高山情報だと女子の生徒とそれなりに仲がいいとか。

熊さんとはタイプが違うが女生徒に人気があるらしいとか。

誰もいない理科室で変な液体を混ぜているらしいとか。

良くも悪くも変な噂はあるらしい。


「結果はすぐに出るからそれまでは教室で待機なー。あと、他のクラスでカンニングが見つかった。このクラスは無かったが、試験は真面目に受けるように」


 先生は解答用紙を手に持ち、教室から出て行った。

終わった。やっとテストが終わった。さすがに五時間連続テストはなかなかつらいものがある。


 ふと、後ろの席の高山を見てみた。

あ、力尽きている。机におでこをつけ、両腕がだらーんとしている。


「高山大丈夫か?」


「お、俺はやった。やりきった……」


 そうか、高山なりに頑張っていたもんな。


「結果はすぐに出るだろ。いやー、しかしなかなかの問題だったな」


 そう、普段の勉強だけでは多分解けない問題が数問あった。

時間をかければ恐らく解けるだろうが、結構難しい。

ひっかけも多く、マークシート方式のテストなのに、即答がなかなかできなかった。

何問かは運に身を任せてしまったが、それはそれでしょうがない。


「でもこれで毎日の勉強から解放される! しばらくは朝ベンも残ベンもなしだな!」


 少しだけ復活した高山。

確かにしばらく勉強ばっかりだった。この後は少し息抜きしてもいいだろう。


「そうだな。少しは休もうか」


――ガララララ


「よーし、みんな揃ってるなー。では、さっそく結果を返していくぞー。三名はテストの総合点数が高い順。それ以降は名簿順に返すので、上位三名は呼ばれたら前に来るように。それと、結果用紙にはそれぞれの科目と総合の点数に対して、クラス順位、学年順位が書かれている。自分の位置をしっかりと確認してくれ」


 いよいよ来た。この紙一枚に、俺達の今後がかかっている。

こんな気持ちになるのは高校の入試以来だな。


 きっと今はただのテストの結果用紙にしかならない。

でも、将来社会に出た時は、自分の評価シートになるんだ。

仕事のできる、出来ないはもちろん、普段の行動も評価される。


 これは、社会に出る前の練習。

努力し、結果を出さなければ他の奴らに抜かれていく。

何もしないのは愚策。結果を求め、対策を行い、行動しなければ。


「では、総合一位の――」


今回の結果がどの様に出るのか。杏里、勝負だ!

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