第87話 高山の計画
空には太陽が輝き、遥か上空では雲が流されている。
そんな昼下がり、俺達四人は学校の屋上にシートを敷き、ランチを楽しんでいる。
今日の一押し品は杉本産三段弁当と自家製ゼリー。
昨日は誰かのせいで自習室が我慢大会となってしまった。
今日はそんな事になりませんように!
「きょ、今日は大丈夫だろ。しかし、杉本さんのお弁当、すごくおいしいよ! ありがとう!」
高山が少し動揺しながら話し始めた。
エアコンの話題から、即弁当の話に切り替えてきた。
「いえいえ。どういたしまして。そんなにおいしく食べてもらえると、作った私も嬉しいですよ」
表情が読みづらい杉本の顔に少しだけ赤みが帯び、照れているようだ。
「ほんと、こんな弁当なら毎日食べたいぜ!」
ど直球な高山の発言に対して、俺が照れてしまう。
良く大声でそんなこと言えるな。恥ずかしくはないのか?
「た、高山さん。そんな大声で話して、恥ずかしくないんですか?」
俺の代わりに杏里が聞いてくれた。
きっと、俺達の心はどこかで通じているんですね。
「ん? まったく恥ずかしくない。心の底から思う本当の事だ。この弁当だったら毎日食べたい!」
笑顔で杉本の弁当を食べている高山。それに対して杉本の動きがさっきより鈍くなっている。
なんだ? 恥ずかしがっているのか?
「天童も弁当うまそうだよな。お互いうまい弁当は幸せを感じるよな!」
「そうだな、作った人の想いが弁当に込められるからな」
高山とそんな会話をしていると、向かいに座っている女性陣が何かまごまごしている。
互いに目線を交わし、恥ずかしがっているようだ。
「彩音の作ったお弁当、本当においしいね。でも、毎回だと大変じゃない?」
「そんな事無いよ。お弁当とかお菓子とか作るの好きだし。誰かに食べてもらって、喜んでもらうの、私も好きだし嬉しいから」
な、なんていい娘なんだ。料理やお菓子、それにデザートを作るスキルを持ちながら、それを苦としない。
素晴らしい、そして隣の高山も瞼に涙をうっすらと浮かべながら、笑顔で食している。
「杉本さん……、俺は嬉しい! 今度何かお礼をさせてくれ!」
「え、別にお礼なんていいですよ。たいした事していないですし」
「いや、もらってばかりでは悪い! よし、今度何か外食でもおごらせてくれ! こればっかりは譲れないぞ!」
おっと、高山さん。そうやって映画の後の事を仕組むのですか?
中々の策士ですね……。
「え、でも、そんな……」
杉本さんは少し動揺しながらも、まったくの拒否をしているわけではない。
ここは助け船を出しますか。
「杉本さん。高山にも男のプライドがあるんだよ。ここはおごってもらってくれないか?」
写真の件とか高山には世話になっているしな。
「う、うん。ありがとう。では、お言葉に甘えますね」
笑顔になった杉本さんは、頬を赤くしながらも、その優しい微笑みを高山に向けている。
しかし、弁当を片手にがっつきながら食べている高山の頬は、若干吊り上りニヤついている。
例えるなら悪代官のような口元だ。
やっぱりディナーの件をからめてきたんだな? わかりやすい奴だな。
「よし! じゃぁ、テスト終わったら詳しく話を進めよう! もちろん、姫川さんも天童も一緒に行こうぜ!」
「お、悪いな。では俺もお言葉に甘えて、豪華なディナーでもおごっておらおうかな」
「いや、天童は自腹でお願いします」
四人が笑う。久々に笑った気がした。
杏里も杉本さんも笑っている。そんな時間を俺は大切にしていきたい。
俺達は少しだけ同じ時間を共有し、四人で歩き始めている。
この先、誰がどうなるかは分からない。でも、今この時間を大切し、一緒に過ごしていくの悪くない。
俺にとっても一度しかない高校生活。それは、ここにいる四人が同じこと。
このまま毎日を楽しいと感じることができるように、この先の事も考えておかなければならない。
俺はこの先どうしていけばいいんだろうか。
俺が相談できる相手は、この学校にいない――。
いた! いたじゃないか!
思いだした。相談するのにぴったりで、しかも信用できる人がいたじゃないか。
少しでも早い方がいい。今、この時間を使って、相談しに行こう!
弁当も食べ終わり、雑談タイムに入っている。
昼休みが終わるにはまだ早い。行ける。
「い、いたたたた……」
「どうした? 天童、腹でも痛いのか?」
心配そうに見てくる杏里と杉本、それに高山。
悪い、演技なんだ。本当はどこも痛くない。
よし、腹が痛い事にしておこう。
「は、腹が急に……」
「だ、大丈夫? 急にどうしたの?」
杏里が心配そうに近寄ってくる。
「腹が急に痛くなった。ちょっと保健室に行ってくる。俺の事は待たないでいいから、先に教室に戻っていてくれ」
俺は、空になった弁当箱を片手に、その場を去った。
俺の方を見てくる三人。すまん。俺にも理由があるんだ。
きっとあの人なら、俺の問題を解決してくれるはず。
あの人ならきっと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます