第77話 ランチのお誘い
「おっす、天童」
今朝も元気そうな高山。俺より早く登校している高山の机には相変わらずノートと参考書。
本気で勉強しているのか?
「おはよ。今日も朝ベンか?」
「まーな。姉さんに映画のチケットもらったから、その分勉強位は真面目にしないとな」
え? あの映画のチケット高山ではなく、高山の姉さんからの物だったのか?
「貰った? と言うか、高山に姉さんいたのか?」
「あれ? 言った事無かったけ? 本当は姉さんが当たったチケットなんだけど、その日たまたま出張で県外に行くんだって。泣く泣くチケットを俺にくれたよ。いやー、運が良かった!」
机の中に今日の分の教科書やノートをぶち込む。
カバンの中はほぼ空っぽだ。
「そうだったのか、じゃぁ今度何かお礼しないとな」
「いらんいらん、どうせタダで手に入れたチケットだ。俺達はその分勉強を頑張るのでウィンウィンの関係だろ?」
「そ、そうなのか?」
さすがに人気のチケット四枚ももらっておいて、お礼も無しはちょっとな。
まぁ、何とかしてお礼を渡せるように考えておくか。
ふと、俺の視界に女子の制服が目に入ってくる。
珍しいな、俺と高山の間に女子が来るなんて。何か用事でもあるのか?
目線を高山から隣に来た女子に。あ、杉本。
今日も校則通りの制服姿に髪は三つ編み、長い前髪がメガネも目も隠している。
俺も人の事は言えないが、見た目は根暗だな。家でマンガとか書いていそうな雰囲気がある。
「お、おはよ……」
声のトーンも低い。これが普通なのか、それとも朝だからなのか。
しかし、母さんの話を思い返しても記憶が出てこない。
同性同名で、俺とは全く関係ないのでは?
「おはよぅ! 今日も元気そうだなっ!」
高山がハキハキと挨拶をする。この声を聞いた後で杉本が元気そうだと、どうやって判断したんだ?
杉本は本当に元気なのか? はぁ、俺にもこの位のコミュ力が欲しい、でも高山のようにはなりたくない。中々難しいな……。
「おはよ。珍しいね、杉本さんが朝から来るなんて」
両手を胸の前で握りしめ、なぜかもじもじしている。
「あ、あのね。今日のお昼、またみんなで食べない?」
ランチのお誘いだ。まー、俺はどっちでもいい。
どうせ購買のパンと牛乳だ。
「ひ、姫川さんも一緒にって事?」
高山は目の前の杉本さんをややスルーしながら杏里の事について触れてくる。
いや、ここでそんな事聞いてはダメだろ?
つか、高山は杏里の事どう思っているんだ? 高山にだったら、俺と杏里の事話してもいいのか?
んー、どうしよう……。
友情と愛情、どっちを取るの? とか聞いたことあるけど、まさか自分の身に起こるとは。
高山の事は嫌いではない。でも、好きかと聞かれると困る。
異性としてではない、友人としてだ。数少ない友人。
その友人がもしかしたら杏里に熱を上げているのかもしれない。
どの程度本気なのかは分からないが……。
「そ、そうだよ。杏里も一緒に……。ど、どうかな?」
「もちのろんです! なっ、天童もどうせパンと牛乳だろ?」
そのまさかです。まぁ、毎日毎日昼に同じ過ごし方をしていたら、覚えられてもしょうがない。
パンと牛乳。他に選択肢が無いわけではないが、これが一番手っ取り早い。
「そ、それでね。て、天童さんは今日、購買で何か買う予定だったりする?」
ほら、やっぱりそうだ。杉本も高山と同じ様に決めつけてくる。
正解なので別に悔しくはないが、なんだかね……。
「俺はいつも通り、購買で買っていくよ」
杉本の手から振るえが止まった。
さっきまでもじもじしていたのに。
「お、お弁当作ってきたんだけど、良かったらもらってくれない? 高山君にはデザート持ってきたんだよ」
弁当。パンよりご飯派の俺は弁当と言う言葉に心惹かれる。
単価を考えても、お弁当の方が高い。お弁当に牛乳にしようか。
しかし、わざわざ弁当を作って来たのか、手間じゃないのか?
「いいのか? 作るの大変じゃないか?」
「えっと、兄弟の分も一緒に作るから手間は変わらないの」
「朝は何かと忙しいだろ」
「杉本さんからデザートの差し入れっ! 自前の弁当じゃ足りなかったから、超嬉しいぜ!」
朝からハイテンション高山。
そろそろリミッターブレイクするんじゃないか?
そして、あのでかい二段弁当でも足りないと? 良く食べるな……。
「じゃ、今日もこないだと同じでいいかな」
「おぅ、俺は席を取りに行くぜ。天童も直行するだろ?」
「いや、俺は飲み物買ってから行くよ」
「おーけい。先に行ってるな」
「私は杏里と一緒に行くから。じゃ、またね……」
しかしお弁当などいつ以来だろう。
初めは頑張って弁当作っていたが、だんだんその回数も減ってきて、最終的にパンになった。
朝と夜にしっかりと食べていれば、一食くらいは適当でいいかな? と思ったのがきっかけだ。
「天童、俺はいま乗っていると思うんだ」
「何にだ?」
「モテ期だ。あのナデシコと映画に行く予定があり、さっきの杉本だろ? 俺にデザートを別に作ってくれている。これは波が来ているよな?」
「あぁ、大波が来ているな」
そして、その波に飲まれないように頑張ってくれ。
高山に本当の事を言うか、言わないか……。すまん、しばらく時間をくれ。
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