第25話 千切りキャベツ?
「お疲れ様でした!」
俺はホールに残ったスタッフのみんなに声をかけ、事務所に戻った。
姫川も挨拶をし、一緒に事務所に戻る。
互いに着替えを終わらせ、帰宅しようとした時、店長が事務所に戻ってきた。
「お疲れ様。急に仕事を振って悪かったね。姫川も少しはなれたか?」
制服に着替えた姫川は店長に答える。
「はい、天童さんに教わりながらですが、少しは慣れました」
「そうか、天童に任せたかいがあったよ。天童も急に悪かったな」
軽く頭を下げる店長。急に振るのもやめてほしいと思う反面、世話になっているからしょうがないか。
「いえ、お役にたてて良かったです」
「姫川も初めての仕事で疲れただろ、次回の出勤日は木金で学校が終わったら来てくれ。それ以降のシフトについては次回の出勤時に伝える。あと、さっき話した書類も持ってきてくれ」
そんな事務的な話もそこそこ、俺達は事務所を後にしようとする。
「あ、悪い。天童だけ少し残ってくれ」
姫川は先に事務所から出ていき、俺と店長が事務所に残る。
テーブルを挟み、店長と向き合って座る。
「天童、姫川ってあのニュースで報道された姫川か?」
俺は無言でうなずく。
「そうか、さっきは少しきつい事を彼女に言ってすまなかったな。本来はあんなことを言うべきではないが、仕事に対しての意識がどの程度なのか確認したかったんだ。気を悪くしないでくれ」
「それは俺にではなく、姫川に言ってもらえませんか?」
「姫川にはさっき謝罪した。天童、これから任せる仕事も増えるとは思うが、面倒を見てやってくれ。先輩としてな」
「はい。自分でできる事であれば」
「次のシフトには穴開けるなよ?」
うぐぅ。ここでその件をついてくるとは。
「大丈夫です。シフトはきちんと埋めます」
そう話した俺は、席を立ち事務所から出ていく。
店を出るとそこには姫川が一人立って待っている。
「悪い。遅くなった」
「大丈夫です。少ししか待っていませんから」
「んじゃ、ささっと帰るか」
「そうですね、ささっと帰りましょう」
俺達は喫茶店を後に、駅に向かって歩き始める。
姫川の初バイトも無事に終わり、何事もなく自宅に帰る事となった。
商店街を通り抜け、いつもお世話になっているお店の横を通り抜けていく。
今日あたり、メンチでも買っていくかな。色々あって買いそびれたし。
「なぁ、今日の夜はメンチカツ食べないか?」
「いいですね。買って帰りましょう」
二人、肉屋の前でメンチを注文し、袋片手に再び帰路に着く。
そして、自宅に帰り少し遅めの夕食を姫川と一緒に作る。
「さて、今日は時間も遅いし、昨夜の残り物とメンチでいいかな?」
「確かキャベツありましたよね? 千切りしますか」
「そうだな。付け合せ位は作ろうか」
俺がキャベツをまな板に乗せ、姫川が包丁を準備する。
千切りできるのか? と思いつつ任せてみる事にした。
「じゃぁ、俺は他の準備しておくな」
数分後、予想通り千切りではなく別の何かが出来上がっていた。
ざく切りキャベツ? 結構分厚い千切りができた。
「ごめんなさい……」
「ほら、千切りはこうするんだ」
俺は見本を見せる。プロ顔負けという訳ではないが、それなりに細く切れていく。
まじまじ見ている姫川は、これからも料理スキルが上がっていくことだろう。
早く分担できるようになると、俺も助かるな。
ちなみに、姫川の作成したキャベツは他の野菜も入れ、野菜炒めと化けました。
「「いただきます」」
今日も姫川と一緒に夕飯を取る。
一人の食事よりも二人の食事の方が同じ内容なのにおいしく感じるのはなぜだろう。
しばらく互いに一言も話さず、食事をとる。
姫川は今日学校では何を話されたのだろうか。先生から俺自身も直接話をされたので、多少なり俺も関係しているはず。
「「あの」」
出だしで被った。姫川も同じタイミングで話してくるとは……。
「ごめん、姫川からいいよ」
「ううん、天童君から」
数分、どっちが先に話すか討論したが、結局俺が先に話すことになった。
「現国の時間、先生に呼び出されただろ? 何を言われたのか気になって」
メンチを箸でつまみながら姫川に問いかける。
姫川は茶碗をテーブルに置き、箸も置いた。
「学校に今井さんから連絡が入りました。私が現在下宿にいる事、そしてお父さんが戻って来ること、あと、皆の前で今回の件について話をしてもいいか確認をされました」
「そっか、良かったな。今まで通りの学校生活が送れそうで」
メンチを口に放り込み、ご飯を食べる。
「そうですね。みんな急に話しかけなくなったと思ったら、また急に話しかけてきて……」
こういった事は良くある事なのか。まぁ、学校と言う環境ではよくある事だろう。
人付き合いもほどほどにしないとな……。
「私からも聞いていいですか?」
「何でもどうぞ」
真っ直ぐに俺を見てくる姫川の目線は真剣そのもの。
何を聞かれることやら。
「初めて今井さんと会った時、なぜ私の事をあの場に残して出て行ってしまったのですか?」
非常に答えにくい質問だ。持っていた茶碗と箸をテーブルに置き、水を飲む。
俺自身、なぜあんな行動をとったのか自分でも正直良くわかっていない。
ただ、イライラしていたのはしっかりと覚えている。
「どうしても答えないとダメか?」
「はい。どうしても天童君の心境が知りたいです」
「答えを聞いたら幻滅したり、嫌な思いをするかもしれないが、それでも知りたいのか?」
「それでも知りたいです」
少しだけ、無言の時間が流れる。俺はあの時の事を思い返し、自分の行動を振り返り始める。
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