第26話 自分の気持ち
俺はあの時の事を振り返り、自分の気持ちを再度見つめなおす。
何を考え、何を思い、どうしたかったのか。
そして、一つの答えを導き出す。
「嫌だったんだと思う」
「何が嫌だったんですか?」
「姫川の家から荷物引き上げて、ここまで運んで、これから暮らす準備をしようかって時に、今井さんに会って『これからは私が姫川さんの対応を進めていくよ』って言われたとき、無性にイライラしたんだ」
「それってどういう事ですか?」
「多分、今井さんに姫川を取られたって思ったんじゃないかな」
「私が今井さんに?」
「そう。俺がしてきたことが全て無駄になって、あとは今井さんが全部引き受けてくれる。俺のできない事を全部してくれる。確かな方法で、何も問題なく……」
「そんな事を思っていたんですか?」
「自分でも良く理解できていないんだ。ただ、あの場にいちゃいけない、俺が場違いで、俺が役立たずって今井さんに言われた気がして。姫川にもあとは今井さんに任せるから、俺はいらないって思われたって感じたんだ。だから、あの場からすぐに消えたくなった……。一人になりたかったんだと思う」
しばらく時計の音だけが聞こえ、俺と姫川が一言も話すことなく時間だけが過ぎていく。
多分、嘘ではない。うまく整理できていないけど、多分本当の事だと思う。
きっと、姫川は俺の事を嫌な奴だと思うだろう。でも、嘘はつきたくない。
これで、今の関係が壊れたって、俺自身が招いたことだ。
俺は今の環境を望んでいるのか? 新しい疑問が自分の中に沸いてきた。
「天童君。私は天童君の事、尊敬しています。将来を見て、自分の事を自分でして。しかも料理も出きて」
姫川が俺の事を見つめながら話しかけてくる。
「私の知らない事を知っている、私に出来ない事が沢山できる。少しぶっきらぼうで、愛想が無くて、学校ではいつも一人で音楽聞いていて」
姫川の言葉は止まらない。俺を真っ直ぐに見ながらその口を開いていく。
「でも、優しい人。私に声をかけて、助けてくれた。そして、今もこうして一緒にご飯を食べてくれている。私に今まで知らなかった事を沢山体験させてくれる。お父さんと一緒にいたら、私はずっとあのままだったと思います。私も成長したい、できることを増やしたい、色々な経験がしたいです」
「姫川……」
「天童君は私にとって必要な人です。今井さんだって、天童君の事必要としています。だから、そんな悲しい事言わないでください。そして、一人でもいいとか思わないでください。一人でできない事も、二人だったらできることが沢山ありますよ?」
姫川は椅子から立ち上がり、俺の頬に手を伸ばしてくる。
なんだ? 何をされる? やっぱり一発ビンタとか来るのか?
俺は、ドキドキしながらその手が頬に触れるのを待った。
そして、俺の頬に少しだけ姫川の手が接し、直ぐに離れる。
「ほら、ご飯粒。一人だったら気が付かないでしょ?」
「確かに、一人だったら気が付かないな」
俺達は二人で少しだけ笑いながら、食事を進めた。
俺の考えすぎだったのか。それとも、考える事すらできなかったのか。
きっと、俺は大人ぶっているだけで、まだまだガキなんだな。
姫川の方がよっぽど大人だ。
そんな互いの事を少しだけ話し、夕飯も終えることになった。
明日の朝は、姫川の千切り野菜炒めをメインとして朝食を準備しよう。
これも、俺一人だったらできないメニューだ。姫川がいたからこそ生まれたメニュー。
夕飯を済ませ、順番に風呂に入り、明日の準備をする。
日に日に最大精神力が向上していく。非常にすばらしい事だ。
おかげさまで風呂にゆっくりと入り、癒されることができる。
そして、寝る直前にスマホが震えだす。
「はい、司です」
『司か。昨日の件だが、明日今井さんと一緒にそちらに向かう。夕方になると思うので、姫川さんも一緒に自宅にいてくれ』
用件だけを俺に伝え、父さんはさっさと電話を切ってしまった。
相変わらず手短だ。メッセで明日の件を姫川に伝え、布団にもぐりこみ、ふと考える。
父さんと会うのは久々だ。俺怒られるような事していないよな?
そんな事を考えながら俺は夢の世界に旅立って行った……。
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