第7話 現実的な問題


 湯上り少女はソファーで無防備な姿を俺に見せつけている。

俺は試されたのか?


「姫川。思ったより紳士ってどういうことだ?」


 寝ていた姫川は服も直し、ソファーに座る。

そして、俺の方を見ながら口を開く。


「ごめんなさい。男性は絶対に下心とかあるでしょ? 学校でも私の容姿とか財力とか見てくるし。男性って、女性の見た目とか体しか見ないじゃないですか?」


 そこは反論しておこう。少なくとも、俺は姫川と深くかかわらない方が良いと判断したから、今までずっと話しかけなかった。

それがどうだ? 今日一日でこのありさま。俺は紳士じゃない、面倒なのが嫌なだけなただの男子高生だ。


「まぁ、そんな男も世の中多いだろうな。俺だって例外じゃない。あんまり俺が意識するようなことはしないでくれ」


 俺はソファーから離れ、席を移動する。

離れていても、姫川から石鹸の匂いが漂ってくる。女の子ってみんなこんな感じなのか?


「そうですね。私も気を付けます」


 俺を見ながら微笑む彼女の仕草はいまだにその攻撃力を保ったままだ。


「髪乾かすなら洗面所にドライヤーあるからな。そのままだと風邪ひくぞ」


 彼女を意識し、俺は直視できないでいた。

新聞を広げ、視界を遮る。


「髪から水分をある程度抜かないと、乾かす時に時間がかかるし、髪にダメージが出るんですよ?」


 そうだったのか。俺はそこまで髪が長いわけではないので、まったく知らなかった。


「そうか、じゃぁ寝る前にはちゃんと乾かせよ」


 不意に姫川が俺の隣にやってくる。

俺の隣に座りこみ、俺に話しかけてくる。


「今日は、本当にありがとう。まさか、こんな事になるとは思わなかったけど、本当に助かりました」


 頭を下げてくる姫川。俺は別にそんな大したことはしていない。

この先起こるかもしれない、自分に降りかかってくる問題を自分の都合で解消しただけだ。

感謝されることなど何もない。


「別に、大したことはしていない。気にする必要もない」


 ぶっきらぼうに答えると、姫川は俺の頬を人差し指で突っついてくる。


「髪、普段からその方がいいと思いますよ。学校だといつも目が隠れているじゃないですか」


 風呂上りの俺はオールバックにしている。学校や出かける時は髪に何もつけず、そのまま下しているので前髪で目は隠れてしまっている。


「別に、普段から何かするつもりはない。面倒だ」


 目線を姫川に合わせず、俺は新聞に向かって話す。


「その方がきっと女子にも受けますよ?」


「俺には関係ない。恋愛や恋話は他で好きにしてくれ」


「それは残念ですね」


 姫川は一言いうと、俺から離れリビングを出ていく。

向こうからドライヤーの音が聞こえてきた。やっと、髪を乾かしに行ったようだ。

どうも調子が狂う。姫川が特殊なのか、女子はみんなこうなのか……。

答えが出ない問題に、俺はしばし悩む。



 しばらくすると姫川が戻ってきた。

髪を後ろに一つでまとめ、さっぱりした感じになっている。

そうだ、明日以降の事も話をしておかなければ。


「お帰り。姫川、明日以降どうするつもりだ」


 しばらく沈黙の時間が流れる。きっと、姫川自身も答えが出ていないんだろう。

ソファーに座りながら、俺の方をじっと見ている。


「とりあえず、残っている荷物を何とかしなければなりません。あと、住むところとか、仕事も探さないと……」


「学校はどうするんだ?」


「学費は卒業分まで先に父が全て支払っているので、学校には通えそうですが、貯金もいずれ底をつくと思うし、それよりも住む場所を探さないと……」


「親戚とかはいないんだよな? アパート借りるにしても連帯保証人とかどうするんだ?」


 再び沈黙の時間が流れる。無職の高校生が一人で賃貸アパートを契約するのはハードルが高いだろう。

それに、本気でバイトしながら学校にも行くことを考えると、成績にも影響してくる。


「保証人が必要無い所を探します」


「家賃高いと思うぞ? 普通の生活費と家賃合わせて十万もバイトするのか? 勉強の時間は? 普段の生活すら難しいんじゃないか?」


 厳しいようだが、高校生の一人暮らしはそう甘くはない。

一人暮らしするにも家賃、光熱費、食費に学校でかかってくる費用。それに交際費、携帯代、幾らでもお金はかかる。

俺個人の意見だが、現実はそんなものだ。


 『愛さえあればお金はいらない』とか、よく言われるが、実際にお腹が膨れるのはご飯だし、電話で愛を囁くにも通信費がかかる。

二人の愛の巣と言っても、そこには家賃が発生している。

世の中、なんだかんだ言っても現金、収入が必須なのだ。まぁ、俺の持論ですけどね。


「何とかします。明日中に住むところを何とかして、荷物も引き上げます。学校にも行きます」


 無茶だな。いや、無茶ではない、無謀な計画だ。

ただの高校生の俺から見ても、賛成できない計画でしかない。


「一つ提案がある」


 俺は、姫川の対面に座り、真面目な顔をする。

普段から真面目な顔をしているつもりだが、いつもより、気合を入れる。


「提案ですか?」


 キョトンと姫川は俺の方を見る。

俺は姫川に対して一つ提案をしてみる。

吉と出るか、凶と出るか……。

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