第2話 バイト帰りの出会い


――ピピピピピピピ


 スマホのアラームが鳴る。

バイトの時間だ。俺は着替えて、朝食もそこそこ、電車に乗りバイト先に向かう。

バイト先は高校のある駅にほど近い喫茶店。時給もそこそこ良く、待遇が良い。


 定期を使うので交通費も浮くし、買い物もこっちでしてから帰る事ができるので何かと便利だ。

電車を降り、改札口に向かう。少し時間が早かったかな?


 改札口を出て、バイト先に向かう途中駅前のベンチで知った顔を見つけてしまった。

姫川だ。いつも持っている通学用のバッグとは別に大きなボストンバッグも持っている。

こんな時間に大荷物。どっか行くのか?


 姫川を横目に、俺は早々にバイト先に向かう。

いつも十一時から十八時までのバイトで、昼はまかないがある。

これが何気にうまい。店で出す食事やコーヒーなど、自由に自分で作って食べられるからだ。


 そんなこんなでバイトも終わり、定時の十八時を過ぎた。

タイムカードを切って、駅とは逆のアーケードに向かう。

アーケードには色々な店があり、薬局や食品、ゲームセンターにカラオケなど一通りそろっている。

俺は大体いつもバイト帰りにアーケードに行ってから自宅に帰る。


 ファッションや流行に乗らず、適当な服を着ている俺は見た感じダサイ男だろう。

髪も適当だしな。

今日は発売された新刊を一冊だけ買って駅に向かう。

時計を見ると二十一時を回ろうとしている、どれそろそろ帰ろうかな。

 

 駅に向かって歩き出し、ふと駅前のベンチに目を向ける。

そこには朝と同じように座っている姫川がいた。


 へ? あいつなんでまだいるんだ?


 今朝、バイトに行く前に見たそのままの状態だ。

何一つ変わっていない。服装も、持ち物も、まさかずっとここに居たのか?


 声をかけるべきか、何も見ていない事にするべきか。

めんどくせ。このまま何か事件とかに巻き込まれたら、俺が悪いようになるじゃないか。


 俺は姫川の目の前まで歩いて行き、声をかける。


「お前、こんな時間に何してるんだ? 早く帰れよ」


 俺に目を向け、唇をかみしめながら俺に答える。


「天童さん? あなたには関係の無い事よ」


「そっか、気を付けて帰れよ」


 一応声はかけたし、注意もしたからな。

俺は責任取らないからな。


 姫川を横目に、駅の改札口に向かおうとすると、後ろから声が聞こえてくる。


「お、お嬢さん、こ、こんな時間に一人でどうしたのかな? 家出かな?」


 振り返ると顔を赤くしたサラリーマン風の男が姫川に声をかけている。


「違うわ。ほっといてもらえますか?」


 やや強めの口調で断った姫川だが、それが逆に男のかんに障ったのだろう。


「折角声をかけてやったのに。いいから一緒にカラオケでも、ね!」


 無理やり姫川の腕をつかみ、あからさまに嫌がっている姫川。

ここで見て見ぬふりをして去る事は簡単だろう。

だが、見てしまった。ふと、姫川と目が合う。


 めんどくせーなー。だから言ったのに……。


 俺は改札口に向かって歩いていたが、方向を切り替え、姫川の目の前に戻って来る。

姫川を掴んでいた男の腕を取り、男の方を見る。


「悪い。俺の連れなんだ。待ち合わせに遅れてな」


 男はばつの悪そうな顔をしながら俺達の前から早々に立ち去った。

姫川は俺に一言も話すことなく、さっきまでと同じようにベンチに座り込む。


「だから言っただろ。早く帰れよ。また何かあったらどうするんだ?」


 姫川はバッグを握りしめ、地面を見ながら、声にならない声で俺に話し始める。


「帰れないのよ。だから構わないで」


 帰りたくない。ではなく、帰れない。自宅で何かあったのだろうか?


「面倒くさいな。いいから帰れよ。家には誰かいるんだろ?」


 俺は姫川の隣に座り込み、姫川の方を見ながら話しかける。

バッグを握りしめ、地面を見ている姫川。その地面には水が落ちたような痕が残っている。

そして、その痕は次第に増えていき、地面の色が変わってしまった。


「帰る場所が無いのよ。だから、私にかまわないで」


「なんでそうなる? 家に戻ればいいじゃないか」


 姫川は頬が赤くなり、声もかすんでいる。

そして、涙目で俺の方を見てきつい目で俺を睨みつけてくる。


「帰る家自体が私にはもうないのよ。だからここに居るの」


 いったい何を言っている? 俺は姫川の言っている意味が理解できなかった。

そんな時、遠くから警察の人がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る