彼女と始める同棲生活 ~同じクラスの美少女と一緒に住むことになりました~

紅狐(べにきつね)

第一章 月が照らす公園の中で

第1話 大和撫子

 連休も開け、学校では早々に中間テストの結果が掲示板に貼り出される。

進学校と言う事もあり、上位五十名は掲示板にその名前が開示されるのだ。


 張り出された順位表に目を向けると、三十三位に自分の名前が書かれていた。

まぁそこそこかな。


 普段からそれなりに勉強はしているが、いまいち本気になれない。

だが、成績を落とすわけにもいかない。親からの仕送りが無くなるからだ。


 順位を確認した俺は早々に自席に戻り、耳にイヤフォンを入れいつもの音楽を流す。

手には参考書。友人はいない訳ではないが、こっちから話しかけるほどでもない。


 不意に肩を叩かれる。


「順位見たか?」


 俺に声をかけてくるのは後ろの席にいる高山勇樹たかやまゆうき

高校になってから、何かと俺に話しかけてくる珍しい人種だ。


 俺は耳に入れたイヤフォンを取り、振り返る。


「ん? さっき見た。特に気にする順位じゃないな」


「さっすが。勉強のできる男は言う事が違うね」


 今回の試験内容は中学のおさらいに近い内容だった。

あれで点数が取れないやつは、この学校に来るべきじゃないだろ? と言う簡単な内容だった。


「高山は?」


「俺か? 点数で言ったらそこそこだったがランクインはしてないな」


 答案用紙を俺に見せた高山の点数は決して悪くない。

あと少し平均点が高かったら俺と同じくらいだろう。

少し笑いながら答案用紙を机にいれる高山。


「まぁ、ナデシコにはかなわないけどな」

 

 高山の目線を追うと一人の少女に行きつく。

姫川杏里ひめかわあんりだ。


 姫川産業の社長、姫川雄三の一人娘。

掲示板のトップに書かれていた姫川は、周りを女生徒に囲まれ、和気あいあいと触れ合っている。

その光景を遠目からクラスの男子が眺めている。


 姫川は黒髪に整った顔立ち、誰から見ても美少女だ。

そして、社長令嬢でもあり、成績優秀。問題なく目立つ存在。

俺は、姫川を一目見て関わり合いたくないと直感した。

俺とは人種が異なる。関わらない方が自分の為だと。


「まぁ、あの容姿にテストの結果。誰から見ても素晴らしいな」


 俺は読んでいた参考書に目を戻し、読み直すことにした。


「お? 天童はナデシコに興味ないのか?」


 参考書を横目に、めんどくさいように俺は答える。


「俺には関係ない。それよりも、参考書を読んだ方がよっぽど身になる」


「ナデシコはクラスと言うより、学年で見てもトップクラスの見た目だからな。人気あるんだぞ?」


 そんな事は知っている。クラスの奴が話しているのを何度か聞いたことがある。

すでに告白して玉砕した人数は二桁。全て断られているらしい。

しかも、上級生でイケメンの先輩も一言でその告白を断った強者だ。


 クラスの中でも、評判は良く人当たりもいい。非の打ちどころが無い人種。

毎回、休み時間のたびに他のクラスからナデシコを見にくる奴までいる始末。

こんなやつが同じクラスにいるだけで、俺は疲れる。

関わらず、遠目に見てるだけでいい。




――


 朝、ニュースを見ている。毎朝、数キロのランニングをし、朝食をとる。

そして、朝食中にニュースを見てから高校に向かう。俺の日課だ。


 学校まで三十分。自宅から自転車で駅へ行き電車に乗る。

そして、着いた駅からは徒歩で十分。そこまで遠くはない。

電車に揺られながら参考書を読む時間も取れるので、悪い事ではない。


 今朝のニュースで気になったのは姫川産業の社長が横領の罪で捕まったことだ。

恐らく同じクラスの姫川の会社だろう。金のあるやつはさらに金を求める。

お金は正しく貯め、使わなければ。


 学校に着くと、いつもなら姫川の周りに数人が群がっているが今日は誰もいない。

話しかける奴もいなく、ひそひそと姫川の事を話す奴らが周りにいるくらいだ。

他はいつも通り。俺はイヤフォンを耳に入れ、参考書を広げる。


「ニュースみたか?」


 高山は俺に早速話しかけてくる。

もちろんニュースは見ているが、その話をするのもめんどくさい。

それに、俺には得も損にもならない話だ。時間の無駄だな。


「知らん。今朝はニュース見ていないんでな」


 高山は今朝報道されたニュースの始まりから終わりまで丁寧に話してくれた。

もちろん、話された内容は俺も知っている内容。


「ナデシコ、このまま通うのかな? 学校どうするんだ?」


 父親が捕まった後、どうなるかはさすがに俺にも分からない。

生活もしなければならないだろうし、これからどうするんだ?


「まぁ、親戚に頼るとか、国が面倒見るとか、幾らでも方法はあるんじゃないか? 俺達まだ未成年だし」


 そんな話を半強制的に聞かされつつ、時間が流れていく。

放課後まで姫川に話しかけた奴はいない。

休み時間に姫川を見に来ていた奴らも、誰も来なかった。


 結局、人ってこんな感じなんだよな。期待させて、裏切って。

気が付いたらいなくなっていて。自分は何もしていないのに、勝手に周りが騒いで。

だからめんどくさいんだよ。人は裏切る、信用したらなおさらだ。


 教室の窓から一人下校していく姫川を見ながら、俺も帰路に着く。

今日は金曜で、明日は土曜。土日はバイトなので今日は早めに家に帰る事にする。

あいつは、家に帰ったのか? ま、俺には関係ないか……。


 平日にバイトをしないのは、勉強や家のことをする為。

平日までバイトしたら、勉学がおろそかになってしまう。

勉強もバイトも集中して行わなければいけない。


 家に帰った後、俺は翌日の準備を行い早々に布団に入った。

親が捕まったら、その子はどうなるんだ?

学校にも通う事が出来なくなるのか?


 そんな事を考えながら、ネットで調べることもなく、俺は深い眠りについた。

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