また会いましょう

根無草 夢境

無題

1946年春、君と一年後にこの桜の下で再開しようと約束をして、君は遠くに行った。場所は何処だったか、兵庫かな。不思議と思い出し難い。まぁそれはさておき、今日は約束の一年後の春だ。辺りは喧騒に包まれ、桜を落ち着いて見る事が出来ない程である。いやはや君と花見に行く時はよく議論したもので、君は「ご飯、ご飯!」と訴えてきて騒がしかった。なのでいつも僕は「花見をするなら、確と桜を見て風情を味わえ」と言う。そういうと君は、「腹が膨れ無い物に興味はないんだよー君。味わうならやっぱりご飯でしょう」との一点張り。「じゃ何故花見をしているのだ」と聞くと、「特別感があるから」と、“ニパー”と心底幸せそうに言うのだ。そうも答えれたら、僕としてもこれ以上言及する気は削がれるもので。「君はいつも固いんだよ。そんなんだから女っ気が無いんだよー」と平生よく言った。本当に良く回る口だ。全く騒がしい限りだ。しかしこれで「何故、そのような事を言う」と言えば、これ又僕の心に刺さる言葉が返って来るだけであるし、何故だか無性に気恥ずかしかった。さて御地蔵様近くの小道を進むと、昔と変わらず、ひっそりと桜は咲いていた。君が来るまでの間する事が無いので僕は酒を飲み、君を待った。しかし何とまあ変わってないものだこっちは、向こうでは大変な事があったのに対岸の火事だと思って呑気に花見をして。日本じゃいつ何時起こるか分からないのに。何てニヒリズム気取って、デカダンスに浸って。ふと、もういいんだ。なんて自嘲気味に吐いてみた。わかっているのだよ。君は此処には来ない。死んだそうだ。遺体は見つかっては無いようだが、あの状況じゃ生存して無いだろう。我ながら情けない程弱っているもので。歓君金屈巵 満酌不須辞 花発多風雨 人生足別離 …嗚呼桜が綺麗だ。見ているだけで酩酊して、足元覚束なくなって、この世の境界がぼやけてすぐにあちら側が見えてくる。何て幻想的で蠱惑的なのだ。嗚呼お早いお着きでございますね隠り世。左様なら現世。此処が隠り世ならどうせ閻魔様の前にしょっぴかれ、僕の罪を洗いざらいさらけ出されるのだ。ならば、自ら話そうではないか。僕の罪は即ち、いや答えは僕自身もわからない。ただ、一つ確かな事が言える。君を救えなかった事だ。これのどこが、罪か?所詮結果論に過ぎないが、僕が君を救えれば、死ぬ事も無かった。前置きはその辺にしておいて僕のつまらない半生について話させていただく。それが前述の僕の罪に関わって来るのだ。まず僕は基本的には無気力かつ中立な立場を好む、事なかれ主義だ。むしろ人と関わるのを嫌う。所謂変人と称される身である。そんな捻くれ者は矛盾に対してとても興味を惹かれる。愛は哀を知らなければ意味をなさない。人は獣が居なければ存在があやふやな事など、もう面白い!お互いが対する、逆の事象であるのに、それ無くては意味を存在を維持出来ないという矛盾!嗚呼考えただけでもこの僕の身に存在する特も言われぬ衝動!猛り、狂い、叫び始める!身に巣食う業火が身を焦がし逝く。何と気持ちが良いんだ…又そんな面白い物を僕自身も持っている事実!僕は矛盾を抱え生きて行く者だ。僕は人になりたくなかった。面白いだろう!人でありながら人の生を否定している。人になぞなりたくは無かった。浅ましくも生を生き。己の保身の為に平気で嘘を吐く。汚い、汚すぎる。強き者には媚びを売り、弱き者には横暴に接する。正に世間で称される獣である。生きている限り、際限なく堕ちて行き。どんな聖人も俗物に成り下がる。嫌な者だ。そうであるなら、僕は野に生きる獣になりたかった。仲間を大切にするし。狸の化かし合いもない。価値を勝手に決めつける金が無いのだから、呑まれもしない。善悪がハッキリで、コロコロ変わらない。堕ちても変わらないのだから意味が無い。最高じゃないか。こちらの方が世の皆様が語る理想の人間像である。単純、単純。思考は簡潔に。人の方が獣に近く。獣の方が人によって近いとは皮肉な者だ。残念だが、僕の人生で感じた人の評価はこんな者だ。僕に言わせれば彼らが「化け者」だが、彼ら曰く僕がそれらしい。まぁそれもそうだろう、僕は感情を理解する事が難しい。いや、感情が良く分からないとも言えるだろう。何故、怒るのか。泣くのか、笑うのか。感情の全てが未知の物だった。皆が当たり前の様に感じ、受け止めている物が僕にとっては、煙の様な物だった。価値観という燃料に行動という火が足され、煙という感情が生まれる。あまりも情けなく漂い、掴もうとすると元々無かったかの様に消えていく。故に、理解が難しい。いや、理解するのを止めたと言う方が正解だろう。なので、愛国心何て物を振りかざし、死にに行く事が最高の名誉だと喚き立てる理由がわからない。そして、疑問を示していると、非国民、化け物と罵られる。こんな出来事が絶えないので、僕は人と関わりたく無いのだ。そんな僕に興味を示した人物がいた。それが君だった。本当に今でも思い出すが、実に不思議な出会いだった。縁も異なもの味なものとでも言えば良いのだろうか。僕は行きつけの人気の少ない潰れそうな喫茶店で売れもしない小説を書いていたら、突然「何を書いているの?」若い女性の声がした。女性らしい高く澄んだ音でいながら、明るく明快な声。鈴を転がすような声と言うのはこの事なのだろうか。ふと、思い興味を持った。僕は物好きを見ようと声の方向を見た。そこにいたのは可愛らしい女性であった。いかにも活発そうだなと一眼で分かった。そんな君は、ご飯を待つ柴犬みたいな目で僕を見ていた。もう興味津々!と目で訴えている。本当に目は口ほどに物を言うんだなと思い。言った。「別に、書きたい物があるから書いている。そう言う君は何故興味を示す」「いやぁ熱心に書いては消して、消しては書いてを繰り返しているからね〜 聞かずにはいられなかったのだよ!」としたり顔で言ってた。その様、正に天真爛漫!正直言って自分はこの手の性格の人は苦手だ。平気で土足で人の心に踏み入ったり。何をするか予測がつかないからである。「ところで、君は何故ここに?」話題を逸らしてみた。主導権を握られたら堪ったもんじゃ無いからだ。「ん〜? 理由は無いよ。何となく気になって入ってみた」満面の笑みで君は言った。犬みたいだなと思わず感心してしまった。この時点で不思議と苦手意識は消し飛び、後に残ったのは純然たる好奇心のみ。そこで「ここに来たのは、引っ越しか?家族も一緒なのか?」と聞いてみた。自分が興味を示したのが分かったのか、尻尾があったら千切れんばかりに振ってそうな表情でまじまじと僕を見た。「そうだよ。引っ越し!ここには一人で来たよ!親戚の叔母さんの家に世話になるんだ〜」今でも思うが、この思考回路はどうなっていることやら。僕が暮らしている所は正直言って田舎である。まぁ多少なりとも発展はしているが、女性が喜んで来るとこでは無い。自分が進む道を猪突猛進に駆けてく溌剌少女である。嗚呼話を戻そう。僕は「そうか」と言って、小説の執筆を再開した。彼女の視線が刺さる。これ以上何を話せばいいのだ。沈黙が漂う中、彼女の視線が続きを促す。僕は呆れながら「君は何を求めている」「何も〜世間話とかする?」ニヤリと君は言う。裏の意味を考えるなら作戦成功かね。僕が付き合う気があると分かった君は「今の日本をどう思う?」と世間話を飛び越えて、爆弾を持ち込んできた。こいつ馬鹿か!と思い顔を見たら、真剣で、何か伝えようとしている。「素性も知らない人にそれを話すのは悪手では?生憎僕に聞くのは御門違いだ」と突き放した。興味はあるが、それが原因で捕まったり、変な噂が立つのは御免だ。だが、一杯食わされた。「ダメだよ。嘘ついたら。君が書いてるの戦争批判でしょう?」と君は言った。そうカマをかけられたのだ。見かけに依らず強かなもんだな。あの性格だからはぐらかせると思ったが、降参だ。逃げも隠れも出来ない。無駄な事は控えたい。大人しく彼女の言うことを聞くしか無い。「正解だ。だが、どうして君が聞く?」「その言い方は失礼じゃないかな?」と君は膨れ顔で言った。この後の会話が僕の人生を変えた。彩られた瞬間だ。「同じ人間同士で傷つけ合い、命を散らせていくって馬鹿らしいじゃん。命は一個だけだよ?それを国に使われるって凄く悲しくない?」と君は先程の明るさは変わり、夕暮れの様な笑いをした。僕は無性に君を知りたいと溢れんばかりの興味心が湧いた。もっとその強さを、僕の知らない感情を、その価値観を!確かに、命は大事だが。今は戦争中だ。人の価値など恐ろしく低くなる。そんな当たり前の事も君にとっては愚行と断じる事が可能だろう。何故なら、命を無駄にしている。それだけの事なのだ。そこに損得も何も無い。嗚呼強い。何処までも単純明快。己の価値観に合致しない物は須らく“悪”である。悪を憎み、正義を愛する。言い過ぎかも知れないが、君の価値観に対して僕はそう評価する。その価値観は正に勇者、聖女である。嗚呼聖女、僕は化け物は貴女のその強さを知りたい。全くの逆に位置する君を知りたい。よく自分と逆の人に惹かれるというが、本当にそうだった。良いだろう、話に乗るのも一興だ。「ここまで来ると、面白い。僕が戦争を批判するのはそこに意味を見出せないからだ。皆が何故愛国心を持っているのか分からない。気持ちが分からないからだ」素直に言った。化け物は知っている。人の醜さを、脆さも。行き過ぎた価値観は牙を剥き身を滅ぼすと。どっかの童話の主人公は嘘つきに染まって、言葉の価値を失った。どっかの綺麗好きは余りにもこだわり過ぎて、病に弱くなり倒れた。感情が理解出来ない少年は化け物に堕ちた。そして聖女は堕とされても、自己犠牲に走って周りを救いに行くと。聖女は答えた「君、なかなか拗らせてるね。私も君と同じ気持ち。ねえこれからも遊びに来て話してもいい?もっと君と話してみたいし、君の小説を手伝ってあげるよ。どう悪い話じゃないでしょ?」聖女は化け物に興味がおありの様だ。やはり、君は聖女だ。手の届く限り全力で手を差し伸べる。益々、興味が湧くじゃないか。呵々大笑、笑いが止まない。面白い。「僕も君と同意見だ。僕も君ともっと話していたい。交渉成立と言った所かな?」「硬いな〜まぁこれからもよろしく」こうして化け物は光を得た。これが僕が君と出会った話である。繰り返すが本当に奇妙だ。お互い謎の引力が働いてたに違いない。小っ恥ずかしい言い方なら運命の赤い糸と言った所かな。それからの日々は表すなら幸せである。君のお陰で彩られた世界は綺麗だった。有難うは、心が締め付けられる暖かい色をしてた。怒りは寒かった。何かが自分から離れる恐怖があった。悲しいは、身を切り刻まれる様に、容赦無く傷ついた。楽しいは何も考えずとも妖精の祝福の様に訪れた。世界は騒がしくも楽しい物だった。人生で一番楽しい時は?と聞かれたら迷わず、この事を話すだろう。何もかもが不足していても君と話しているだけで楽しかった。花見をして、天の川を見て、月を眺め、雪と踊った。四季を君と共に味わった。価値観の垣根が取り払われ、聖女も化け物も関係無く。ただ、眼前の喜びを噛みしめる。今思えば、それは確かに幸せだった。しかし、世の中は非情で次第に荒れ狂っていた。戦争は激化していき。国が高らかに戦争の正当性を謳い。洗脳教育にお熱になり。学生すら戦争に出す始末。もうしっちゃかめっちゃか。近代国家かここは?俄かには信じられない。野蛮極まりない国になった。僕はさっさと兵役逃れした。元より体が弱かったので楽勝だった。こんな国の為に命を捨てるなんて阿呆らしい。家族も乗り気だった。当然の反応だろう。僕はこんな感じで、この波をのらりくらり乗り越えた。だがこの荒波は徐々に君、聖女を蝕んでいく。僕、化け物は元々不条理を許容した身だ。しかし、聖女は不条理に抗う者だ。久しく忘れていたが、本来の性質はこれなのだ。どんなに光を知ろうとも化け物は化け物。どんなに闇を知っても聖女は聖女。変わらないのだ。聖女は会う度に、何か思い詰めた顔になっていく。あの夕暮れの様な笑みが増えた。あの天真爛漫さが鳴りを潜めた。化け物は焦る。聖女は道を違わず。ひたすらに自己犠牲の道に走る。化け物は言った「どうかしたのか?」と。今度は僕が君に救いの手を差し伸べたかった。強く抱いてしまえば壊れてしまいそうな花車さ。太陽の様な優しさを振りまく博愛。雨の様に慈愛を降らせ、悪には刀の様な正義感で成敗しに行く。そして、犬の様な忠誠心。その全てが僕にとっての光だ。この昏い心に彩りを与えてくれた。その感謝の思いは、一生をかけても返せない。君は優しすぎるのだ。見ず知らずの他人の訃報も我が身の様に思い。泣き。誰かに良いことがあれば一緒に喜ぶ。現に「ん〜?どうもしないよ。ちょっと疲れただけ。心配してくれてありがとう!」と元気に言う。嗚呼どうしてそんな表情をするのだ!何故そんなに君の笑みに影が差さなければならないのだ!あの天真爛漫な笑みが何故消えているのだ!辛いのだろう?僕はそう思う。何故かと言うと、僕も偽るからだ。化け物でありながら人の世に生きるのはとても辛い。あまり好きでもない“人”と楽しく生活をして、分かりもしない感情を身体で必死に表現して、明るい、愛想の良い人になれる様に偽った。だが、辛かった。身体と心の温度差に踠き、苦しみ、傷ついた。人という仮面を被って、演じれば演じる程、何かが潰れる音がした。次第に自分を失くし、どこか薄っぺらい空虚感に身が浸されていく。僕はそれが非常に辛かった。漠然としかし確実に、“自分”と呼ばれる者が消えていく。生きながらに別の存在に置換されるのだ。これを辛くないというのは無理があるだろう。化け物は名前の通り、化ける代償に自分を捧げた。聖女と呼ばれる者は古今東西、自分を犠牲にする代わりに他者を助けてきたそうだ。君も同じだ。いつも自分の事は後回しで、他人を優先して。あたかも何でもない事の様に振る舞う。それが聖女の強さでもあり、弱さである。もう人を助けられる事が最上の喜びであり、極端な事を言えば助ける事が人生の目的なのである。その為には自分が死んでも構わない!というある意味敬虔な殉教者だ。自分の正義感、価値観を信じ、それに従えるのならば自分すら捧げる。確かにそれは強さだ。人は生きている限り、幾度もなく自分の価値観に目を背ける瞬間がある。例えば、いじめ。多数で一人に暴行を加える。その光景を見た時どう動く?大体の人は「それは良くない行為だ、やめさせよう」と思うだろう。だが、出来るのか?「あ、止めに行ったら次は僕に行くのでは?」と。我が身可愛さで、しり込みするのが関の山だ。だが聖女は迷わず踏み込む。それで標的になろうと、傷つこうとも。何故そこまで出来るのか?簡単だ、自分の価値観に報えたからだ。だがそれは弱さでもある。盲目すぎるのだ。報える為に自己犠牲も惜しまない。嗚呼素晴らしき価値観、信念かな。本人は当たり前の様に“自分”を焼べて信念を燃やす。見てくれは大変綺麗だが、考えてくれ。燃やしているのは“自分”である。自分を構成する核とも言える者を無計画に燃やしているのである。なら行き着く先は自明である。信念に固執する救えない怪物。信念を失えば、存在意義を失い、寄る瀬も無い“独りぼっち”になる。鳥は果てし無い空に夢見て懸命に羽ばたいたら、帰る場所を失くし落ちていく。何とも哀しい者だ。しかも厄介な事に盲目故に、救いの手すら拒む。いや、その必要性を感じていないの方が適している。だから化け物は焦るのだ。君の事を聖女と称したが、それは完璧では無い。君は確かに紛う事無き聖女だ。その信念は既に聖女に達してる。だが、聖女の笑みに影が差しているのだ。いつも気丈に振る舞っている君がだ。本人は気づかないと思うが、やはり辛いのだ。心をどんだけ封じ込んでも鳴いているのだ。君はまだ聖女の卵だ。救うなら今しか無い。今救えなければ、盲目という闇が君を覆い隠す。僕にはそれを晴らす光が無い。急げ!こんな状況だから、それに憂いているのかも知れない。だが、それでもまだ孵化してない事に僕は賭けたいのだ。なので僕は賭けに出た。「本当か?辛くは無いのか?もっと僕を頼って欲しい!言いたい事があるなら素直に言ってくれ!今の君を見ていると僕が辛いんだ…なあそんなに僕は信用出来ないのか?お願いだから、もっと素直になってくれ自分を曝け出してくれ…」僕は訳もわからず流れ出す涙も拭わず、思うがままにぶつけた。君は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにあの笑みに戻った。そしてトドメを刺された。「お、おー君がそんなに感情的に話すのは初めて見たよ。そんなに私やわじゃないからね!ほら君も知っての通り、何時も直球だよ。ね、ほら泣かないでよーこんな状況だから泣くの?君って優しいね。ほらほら話の続きをしようよ」僕は賭けに敗れた。君は既に聖女になっていた。既に盲目が隙間無く纏わり、僕みたいな微かな光では祓えなくなった。嗚呼賭けに敗れてしまっては僕は一生自分を許さない。自分の性格に甘んじ、事無かれ主義を掲げ!救えるはずだった君を放置して。分かっていたのだろうこうなる事を!嗚呼、止まない呵責の声!溢れ出す、深い後悔。自分を燃やし尽くそうとする、荒れ狂う怒り!どうして、どうして!僕は君の帰る場所になりたかった。君がどんなに遠くに行っても帰って来れる様に。なのに!僕は日和って現状維持に努めた。今までの関係が壊れるのが、死ぬ様に怖かった。でも現状は壊れた!僕はもう君とは対等には話せない。結果変わらなかった!何で、何で…自分の中で感情が暴れ出す。「お前の所為だ!」頭の中で響きわたる。分かってるよ!知ってるよ…涙が止まらない。嗚呼、嗚呼。言葉にならない。ただただ、号泣。ここでほっとかないのが聖女だ。「大丈夫!?ねえ。ほら私元気だよ!あ、もしかしてさっきのって告白?」と明るく言ってくる。もう止めてくれ。君の全てが全部僕を責める。君の言葉が僕を容赦なく撃っていく。君のその笑顔が僕を非難する。君の声が僕の罪の意識を肥大化させていく。今の君を作ったのは僕と言っても過言では無いだろう。その聖女の様な慈愛も僕にとっては矢に降られているもんだ。嗚呼、君は将来独りになる。僕が手を差し伸べられられてたら。悔恨。もう涙は止められなさそうだ。溢れる理由など付けられない、表現をする事も不可能な想いが加速させていく。胸がずっと締め付けられている。この日はもうお開きになった。それからはお互い会う頻度は減った。僕は負い目から。君は勉強で。そうして日々を過ごし、終戦を迎え、あのさよならの日が来た。君は真夏の太陽な笑顔で「私、教師になる為に大学に通います!」と言った。僕は「そうか、教師か…良い目標だ」と精一杯明るく言った。君は褒められた犬の様な顔で「ね!良いでしょ!」そして少しトーンを落として「この日本は度重なる戦争で多くの未来ある若者を失くした。そんな中私は生きている。死んでしまった人達が創ってくれたこの平和をこれからの世代がちゃんと謳歌出来るようにしてあげたい。ちゃんと望んだ道に進める様に。それが私の役目だと思う」と言った。やはり聖女だ。もう止められない。君にはこれから先苦難が次々降りかかってくるだろう。どうか目標を失わない様に願う。君に幸あれ。「君なら、良い先生になれる。時々で良いからこっちに帰って来な。帰る場所はあるからさ」これが僕が出来る最後の救いの手だ。心に引っかかってくれるといいなとは女々しくも思う。君はニヤと笑って「手紙は送る!来年花見しにこの日に戻ってくる!その時は一緒に飲もう!あの木で!」と言って汽車に乗った。最後まで手を振ってた。だいぶ長くなったがこれが僕の半生だ。どうでしょう。僕は所謂人殺しです。死ななくてもいい人を死なせた大悪党でございます。今から罪状を伺いに参ります。幾ら心は隠り世に居ても身体が現世に居ては留まれない。遺言を遺すとしたら、君に会って謝りたかった。地獄にいるとしても会えるかどうかわかりませんので、申し訳ないですけど、伝えられたら伝えてください。それではまた裁判で会いましょう。

閻魔は倶生神から今日裁判を受ける者の人生を書いた資料を貰った。しかし、罰を決めるのに難航していた。そこで記録係に聞いてみた。「倶生神この男の罰はどう考える」「おお閻魔様、誠に恐れ多い事でありますが、私が思うにこの男の罰は…」おお倶生神その罰は面白い。では、□□お前に言い渡す判決は…

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