第4話 待ち時間、寒い

部屋番号は102。建物に入ってすぐの部屋だった。表札には「有坂」と書かれている。俺は、ここで初めて彼女の名前を知った。

 「ちょっと散らかってるから、先に入って片付けるね。少し待ってて。」

 彼女はそう言いながら鍵を開け、部屋に入っていった。俺は、部屋の扉にもたれかかり、そのままズルズルと下がり、座った。腕時計で時間を確認する。深夜の1時過ぎだった。もうこんな時間なのか。どおりで疲れもしてくる訳だ。

 俺はポケットへ手を伸ばし、煙草を口に咥えた。疲れを取るには一番の良薬だ。しかし、ここは他人の家だった。いくら外と言えど、勝手に煙草を吸うのは良くないか、と思い。咥えたそれを、箱の中に戻した。

「何やってんだか。」

 自分の行動が馬鹿らしくて、つい独り言を漏らした。ケータイの充電が切れて、素性もよく分からない女の家に転がり込む。吸いたい煙草も吸えなくて、散々だ。はぁ、とため息をついて、更に深く腰を下ろした。しかし、既に彼女の家の前にもいるし、結局は厄介になるのだ。今更、そんな事で悩んでも仕方ない。それに、彼女という人物にも興味はあった。というか、ここだった。

 ガチャ、という音がした。俺がもたれかかり、座っていた扉が少し空いた。

「なんか動かないと思ったら、座ってたのね。さ、入って。」


 彼女は先ほどまで着ていたスーツを着替えて、白く大きめの少しよれたTシャツとジャージを履いていた。不覚にも、可愛い。だ、なんて思ってしまった。

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