第2話 コンビニ2人

「普通に困るじゃん。ケータイないと何も出来ないっしょ。」

 彼女はコンビニの安い缶チューハイに手を伸ばしながら、軽やかにそう言った。

 確かに、彼女の言う事は御尤もである。スマホという名の文明の力に頼り過ぎた我々は、結局スマホがないとロクに身動き一つ取れないのである。いや、動くことには動けるのだが、スマホがあるとないとでは、使う労力の差に違いがあり過ぎる。例えば、ここで俺が彼女のケータイを借りて、「西馬込 ホテル」と検索をし、ホテルを探すことは出来る。しかし、どうやって向かうのだ。人に道を聞こうにも、こんな夜更けに出歩いている人はかなり少ない。それこそ、俺たちくらいではないだろうか。

 それに、申し訳なくて彼女のケータイを借りて地図を見ながら歩く訳にもいかない。しかし、こんな夜更けに少女の家に転がり込むのもいかがなものか。

 「お兄さん、飲まないの?」

 彼女は俺の気も知らないで、平然と飲みに誘ってくる。

 電車で俺を起こしてくれたり、こうして自宅に帰れなくなってしまった俺を家に招き入れようとしてくれたり、どうやら彼女は優しい人なのだろう。寝ているところを起こされたため、彼女には悪いと思いながら、鞄の中身を確認した。だが、盗まれている形跡はない。

 ここまで来ると、彼女の方が心配になってきた。ちゃんと俺が男だと解って、家に来るか尋ねたのだろうか。彼女は今晩俺に寝床を与えてくれた恩人であるため、襲うようなことはしないが、俺だって一応20代の男だ。何もないという保障はない。しかも、一緒に酒を飲むつもりでいるあたり、かなり不用心だ。

「何、お酒弱いの?」

 俺の心配を他所に、執拗に酒を誘ってくる。この際、もう乗ってしまうことにした。

 「そんな強くはないよ、君は?」

 「全然ダメ、お酒は好きなんだけどね。」

 そう言う彼女の手に握られていたのは、季節限定のほろよいだった。本当に弱いのだろう。

 俺は彼女の立っている目の前の冷蔵庫を開けたくて、どいてと手で合図した。

「へー、ビールね。そんなノリ気でも無さそうなのに、ちゃんと飲むんだね。」

 「まぁ、俺も酒は好きだから。」と言って、冷蔵庫の扉を閉めた。

 そのまま、レジに向かい会計に進んだ。すると、彼女がレジ後ろから「払ってよ、宿代。」と、俺のビール缶の横にほろよいを無造作に置いた。

 別に渋る金額でもないし、宿代にしては非常に安価で済むため、快く払う事にした。しかし、あまりに安すぎるため、「何か食べ物とか要らないの?」と、気を遣った。「んー、じゃあ」と、彼女は言いながらお菓子棚へ行った。迷う様子もなく、棚に手を伸ばし、それをレジに置いた。ミルクチョコだった。

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