第32話 リュート< ジン <<< ハク ?
「ギギッ……ギッ……」
鳴き声とも悲鳴とも聞こえる鈍い声が響いて、やがてその声は小さくなっていき、やがて辺りは静寂に包まれていった。
地面に叩き落された
槍で指しても槌で叩いても壊れることのない最強の盾。そんな最強の盾を攻撃に変換することで成る最強の矛。
最強の盾と矛がぶつかり合った先にあるものは矛盾などではなかった。最強同士の衝突は、ただただ崩壊を生むのみだったのだ。
嵐鼠が完全動かなくなると、ハクはゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
先程まで生死のかかった戦いをしていたにも関わらず、一つも顔色を変えずに歩く姿にはどことなく恐怖を感じる。
それは初めてのものではない。この感覚はリュート相手にも感じた感覚だった。
こうした感情を抱くたびに、僕は彼らと僕とのどうしようもない壁を痛感せずにはいられないのだ。
「……すごいな、ハク」
「別に、これくらい普通や」
僕とハルが迎えるが、ハクは見向きもせずにむしろそっぽ向いて僕らの間を歩いて行った。
しかし、通り過ぎる瞬間に見えたハクの横顔がわずかに吊り上がっているのが見えた。きっと、いつもの照れ隠しなのだろう。
「でも、リュートはここまで魔力が強い魔物を相手にはしてなかったぞ」
「そりゃあ、リュートじゃあの強さには……」
言いかけていたハクだったが、途中でその声は
「どうかしたのか?」
僕が問いかけると、ハクは思案顔になりながら呟いた。
「……いやまあ、結局はうちが強いってことやな」
どことなく歯切れの悪い言い方だったが、言っているうちのハクの顔があまりにも誇らしげだったせいで、それ以上は考えがいかなかった。
しかし、その代わりに一つある疑問が浮かんできた。こんなに小さなハクですらこの強さなのだ、ならばハクと一緒にいるジンは一体どれほどの実力者なのだろうか。
「なあハク、ジンって実際どれくらい強いんだ?」
「ジン?」
「ああ、だってハクを連れてるんだから、それくらい――」
素朴な疑問を言おうとしたのだが、最後まで言い切る前にハクが僕のすねを蹴って僕の言葉を止めた。
「アホ、うちがジンに負けるわけないやん。ジンの方がずーーーっと弱いわ!」
「いやでも……」
反論しようと思うが、またも言い切る前にハクからすねへと攻撃をくらった。
子供の力とは言え、すねへの攻撃は流石に痛い。これ以上は刺激しないようにしよう。
先々と歩いて行ってしまうハクの後追っていると、隣でハルが呟いた。
「それじゃあ、ジンとリュートだとどっちの方が凄いのかな?」
「どうなんだろう、正直僕たちって誰がどれくらいってわからないからな」
「ねえ、ハクちゃん!」
先を行くハクに追いついてハルが、僕に訊ねた質問をハクにもする。
するとハクは、一瞬たりとも考える仕草をせずにバッサリとそれを切り捨てた。
「そんなんジンに決まってるやん。そもそもリュートは……」
強い語気で言っていたハクだったが、途中でその勢いは弱まっていく。そして少しの間俯いて顔を曇らせると、今度は何もなかったかのようにはっきりと言った。
「……まっ、さすがにリュートじゃあ、ジンやうちの足元にも及ばんわ」
「へえ、そうなんだ……」
ハルが少し驚いたように頷いた。
その反応には僕も同感だった。
僕の想像するリュートは、いつも危なげなく魔物を倒しては僕らを守っていただけに、それなりに凄いものだと思っていた。それもジンと同等くらいには。
ハクの言っていることだからどこまで信用できるか分からないが、ジンには遠く及ばないというのはあまりに意外だった。
「まあ、リュートの実力くらいはすぐわかるわ」
両腕を頭の後ろで組みながら歩くハクが、顔だけこちらに向けた。
「そうだな、リュートも明日からは学校にも来れそうだったし」
「それじゃ、うちの護衛も今日で終わりやな」
「そっか……今日までありがとなハク」
「ふんっ、ほんま今日まで大変やったわ。帰ったらジンのやつシバいたる!」
僕の言葉に興味なさげに短く鼻を鳴らして応えたハクだったが、やはりハクの頬は赤く染まっていた。
その姿に僕は微笑みながら、衝動的に煌びやかに輝くハクの髪を撫でようと試みるが、寸前でハクに腕を掴まれると、またしてもすねに蹴りをくらうことになった。
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