プロローグ

「だから、遥か過去のことについて知ることに、意味があるとは思えないんだよ」


 できる限り強い口調で、身振り手振りまで付け加えて強く主張するように言うが、目の前の男は気だるそうに聞き流している。


 それを尻目にみながら僕は続ける。


「考古学とか言ってはいるけどさ、昔のことを調べてそれは果たして現代の役に立つのか? 発展してしまった化学ある現代に過去のことを引っ張り出しても、現在のはびこる地球問題を解決する糸口になるとは到底思えないんだよ」


 聞くとも聞かぬともわからぬ姿勢でこちらを見る目の前の男は、面倒になったのか「あのさぁ」と話を変えようとする。

 しかし、僕はその言葉を勝手に引き取ってまた話を展開する。


「うん! わかるよ! そりゃあ、ピラミッドとか現代の科学をもってしても解明できないものは沢山ある。もしかしたら今より発達していた文明があったかもしれない。けど、それはその時の話だろ。現在のように氷河は溶け、砂漠化が進み、温暖化は止まらない時代じゃあない状況だ。そんな時に発達していたものが現在需要があるかなんて、証明できない。だったら僕らに関係のない過去のことに関わっていたって意味なんてないと思うんだよ」


 僕の力説を適当に聞き流したであろう目の前の男は、閉じていた口をまた開いて、今度は僕にかき消されないように、さっきより強い口調で。


「じゃあさ」

 と言った


「じゃあ……お前とは違う世界に住んでる俺のことも関係ないから、関わらなくていいだろう?」


 そうやって冷たい視線を投げかけられながら冷たい言葉が僕に向かって発せられる。


 きっと彼は全力で地球温暖化に対抗中なのだ。

 だったらその言葉は僕ではなく地球に向かって投げかけてほしい。僕では冷たすぎて凍死してしまう。


 そんなことを考えながら黙りこくっていると、目の前の男は、今度は嫌な笑みを浮かべながら若干上から目線で。


「それと――いい自論だ、感動したよ。なら今回の歴史のテスト範囲教えても気を悪くするだけだな」

 と、皮肉を並べてきた。

 いやまて、それはまずい。


「それは違う」

「違くない」

「いや、それは授業という義務の一環であるから仕方がないんだ」

「高校は義務教育ではないって、この前俺に豪語していたはずなんだが……俺の間違いか」

「いや、えっと……すみません、歴史の範囲教えてください」


 諦めて謝ることにした。結局のところこれが一番なのだ。それにこいつは案外優しい奴だからこうして謝れば、テストの範囲くらい快く教えてくれるはずだ。


 そう期待を込めた表情で待っていると、目の前の男はまたもや嫌味な笑みを浮かべた。


「残念だけど、俺はそんなに甘い人間じゃないし、謝ればなんとかなるなんて考えは見直した方がいいぞ」

「なんで僕の心を読んでるんだよ」


 そうツッコミを入れると、今度は先程とは少し違う、不敵にも見える笑みを浮かべて。


「まあ、そりゃあ――」

 と、曖昧な返事を返された。


 しかし、「むしろ」と言うべきか「たしかに」と言うべきかはわからないけれど、そんな曖昧な返答は、むしろたしかに的を射ていた。


「まあ、そりゃあそうだな……」

 僕の目の前の男、はい龍利りゅうともといリュート・リグレイは異世界人だから。

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