第1話 25歳

こうなることは、必然だった。


1881年10月下旬。

夕闇に、流矢知紗は座り込んでいた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


目の前には少女。

自分の息子と同い年──4歳の少女が倒れている。


知紗は少女の腹部に手を置く。ヌルリとした感触が手に伝わる。

そして、知紗は笑みを浮かべた。

これが、自分の求めたモノ。ずっと幼い時から追い求めたモノ。


『わたくしが後でお送り致しますわ』

少女の母親とは、仲が良かった。その知紗の言葉に、少女の母親は一切疑念を持たなかった。

『有難うございます。もう・・・。本当に申し訳ございません、知紗様』

『いいえ、お気になさらず。さあ、行きましょう』

知紗は少女を連れた。少女は笑顔だった。無邪気な笑顔で知紗を眺め、近くの庭園で草花を集め、知紗に見せていた。


・・・その少女は、もう動かない。

腹部を切り裂かれた中身を取り除くように、知紗は手を入れる。

内臓が知紗の手によって動かされ、血生臭いにおいと共に腸が引っ張り出される。

簡単に包丁だけで此処まで出来ることに知紗は感動さえ覚えた。


そうして、知紗は手に付いた血を少女の身体に手足に顔に塗りたくった。

全身を真っ赤に染め上げた姿は、まるで造形美術のようだった。


「太輔・・・・・・・。帰らなくてはいけないわ」


知紗には、1人息子がいた。

今日は、家で使用人の長沖安廣が面倒を見ている。

この闇では、太輔はとうに寝ているだろう。どんな寝顔だろうか?

日に日に大きくなる息子の姿を見ることが、知紗のもう1つの楽しみであった。


知紗は立ち上がろうとしたが、目の前に倒れたままの少女を思わず見返した。

このままにすべきだろうか。

街頭のないこの場所で、少女は誰にも見つからないまま骨になるのだろうか。


「いいえ、そのようなこと・・・あってはならないわ」


知紗は少女を抱くと、少しばかり歩き広場の入り口に寝かせた。

それでも光は、ない。

少女の身体は冷たい。しかし引き裂かれた腹部からは生温かい血が溢れている。

少女の身に着けていた着物は、殺すために引き裂いた。

しかし上半身が裸になった少女を見ると、知紗は恥ずかしさを覚えた。

いくら殺した少女とはいえ、女の子の裸体を周囲に知られることは知紗が許せなかった。

少女の無残な姿を見て、知紗は思わず少女を抱き締めた。

筋力を失った少女の身体は、グニャリと可笑しな方向に向く。それでも知紗はひたすら少女を抱き締めていた。


抱き締めたぬくもりは、息子の太輔と同じだった。少し太輔の方が大きい。


『ねぇ、なんで?なんでこの子は死んでいるの?』

母親にそう訴える少女を見た時、知紗は少女の願いを叶えなければならないと───そう、強く感じた。


『ありがとう───瑛子ちゃん』


知紗は、強く感謝をした。

私の願いを叶えてくれた、たった1人の少女。

ただ、幸せだった。この先地獄しかないとしても、知紗には未来よりもこの瞬間を手に入れたかったのだから。


こうして、知紗の人生は幕を閉じたのだった。


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