第15話 仮面昼食会

 この中にあの人はいるのかな。


 今度は仮面舞踏会ではなく、仮面昼食会だった。立食じゃない、結婚式みたいに丸テーブルに座って知らないおじさんたちと仮面をつけてコースメニューをつつく。



「お嬢ちゃんはどこの会社のご令嬢かな?」


「玉名グループのつながりで」


「ここにいるみんなは玉名グループのつながりだよ」


「や、や、や。もしかして本社の?」


「え? お嬢さん。本社の方の…」


「いやぁ失礼した。お嬢さん、名刺だけでも持って帰ってくれませんかね」


「お父様によろしくお伝えください。クララホーンアルメンテの佐々木という者です。主に掃除機器の製作と開発をしている企業でして」


「うちは大阪菅原コミュニケーションズって、個人情報の保守管理をしている会社です。うちで保守管理任せてもらえたら、一番安い値段でさしてもらいますよ」


「こら君、談合はいけないよ。これは弊社のお食事処の招待券です。どうぞ」


「うちはフレンチやってるんですぅ」

 えらいことになってきたが、田中ちゃんに難しいことは分からない。


 田中ちゃんは伊勢海老を食べるのに必死だった。


 一方ケンタは会場に来ていた細マッチョをトイレでむしゃむしゃと食べていた。もちろん性的な意味である。


 この細マッチョが二丁目を統べるのにはまだ十年も前の話である。閑話休題。



 なにかしら、あの人だかり。



 社長夫人の真浮華まふかは一つのテーブルに群がる男共を怪訝な目で見ていた。


 どうせ自分の挨拶にでもなれば、それぞれがテーブルにつき、私に熱い視線を向けるだろう。


 だが、挨拶の時だけでは無く真浮華は座っていてもチラチラ見られたいのだ。ゴソゴソと自分の美しさを噂されたいのだ。


 それがよく分からない人だかりに客が注目している。非常に気に食わない。



「何をしていらっしゃるのですか? みなさん」


「何をって、た、玉名社長!」


「こんなに集まって、おひとりでおいでのお嬢様をいじめて。おや、この名刺は?」


「おっと、名刺入れのふたが壊れていたようだ。みなさんもそうですな?」


「ははは、やはり海外のものはいけませんな。こうふたの閉めが甘くって、いやはや失敬失敬」

 それぞれの男が名刺入れを取り出し、慌てて自分の名刺を探したが、色んな策略が混じりあった結果、どれが自分のか分からなくなっていた。



「おや、みなさん。ゴールドネイム社の名刺入れを使ってらっしゃる」


「ゴールドネイム? これ、中国産でしょ。やはり国産ものが一番ですよ」


「ゴールドネイム社は我が玉名グループが全出資している子会社でして。そうですか、担当者にこの旨伝えておきます。皆さまには不評だったと」


「あっ、いやっ、あれ、? 私の使い方が悪かったんですね」


「少々使い方が悪いだけで壊れるのも考え物ですね。やはり担当者に」



「いや、粗雑な扱いをしていたんですよ」

「おい、やめておけ」

「いや粗雑だなんて、ね?」



「クララホーンアルメンテ様は粗雑な扱いをされている、と。そのような企業様は製品も粗雑なのですね」


「な、なにを根拠に!」


「名刺入れも企業の商品も同じです。持ち物一つ大事に出来ないような会社とわが社は取引したくない」


「みなさまも雑な扱いしておられませんよね?」


「いや」


「ならば、担当者の首を切りましょう」




「はっ、今メールが入って急な仕事が!」


「私も」


「私も」


「わたくしも」


「うちも」



 そして田中ちゃんのテーブルからは誰もいなくなった。

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