第12話 商談会

 華やか、キラキラをイメージしていた。

 キラキラとしたシャンデリア、えんじ色の絨毯、大きな階段、秘密めいた仮面の数々をイメージしていた。が、しかしだ。



「玉名さんのとこの設備、うちの会社で任せてはいただけないでしょうか?」


「予算次第ですけど、マカリテランデブーさんに任せていきたいと思ってんですよね」


「大体おいくらで?」


「五千」


「うちなら三千で」


「まずは仮面を取るとこから始めましょうか」



 ホテルの一室、普通サイズの会議室。


 もちろん大きなシャンデリアは無い。じゅうたんはあってもえんじ色でもないし、大きな階段も無い。


 商談をした企業は仮面を外してまだの企業は仮面をつけてるという。


「田中ちゃん当てが外れたわね」


「そうですね。ケンタさん、この人たち回りくどい」


「でも分かりやすいわよね。このやり方」


「こんなのあのおじさんの言う通りじゃないですか」

 頭の中で京作さんが「ほれみたことか」って言っていると思う。悔しい。


「でもドリンク飲み放題らしいし、高級なの飲んどいで、社会勉強よ」

 押し出され、ケンタさんはと言って去って行った。


 仮面外している企業さん逃げて。


「お嬢さん。いかがですか?」

 これまた執事服の黒執事に出てきそうな田中さんみたいな。

 あっ、田中さんって私と同じ苗字じゃん。感動。


「いただきます」

 田中ちゃんはぐいっとドリンクを飲んだ。なんだか苦い味がした気がした。



 説明しよう。田中ちゃんはお酒に弱い。以上だ。



「あははー、世界が回ってるよー」

 仮面つけてて、なにか蒸し暑いし、くらくらするし、お腹空いて来たかも。


「お嬢さん。どうしたんだい。どこかのご令嬢かな?」

 あっ、この声の人知ってる。


 そう言えば、おじさんのとこで聞いたけど、誰か分かんないや。


「おじさん誰?」


「おじさんとは、フフ。まぁそんな歳か」


「おじさん一人?」


「家に帰れば家族はいるよ」


「おじさん楽しい?」


「今は楽しくないかな」


「私、花火好き」


「唐突だな。私も好きだよ」


「花火大会あるの。私、いつも北の丘から見るんだ。おじさんも行こうよ」


「え、いや」


「行こうよ。おじさん行こうよー」


「秘書と相談して」


「田中ちゃん、田中ちゃん」

 あーもうおじさんどっか行っちゃった。


「シャンパン一杯でこんなになるとは、私も不漁だし、帰るわよ」


「おじさんがー、おじさんがー」


「あの人だいぶ上の人よ。帰るわよ。こんなとこ用は無いの」


「おじさーん、おじさーん」



 説明しよう。田中ちゃんは酔った時の記憶が全部ある方だ。以上。



「あぁ、もう。私、最悪」


「大人の階段昇っちゃった?」


「そらちゃん違うの!」


「なにが違うの」


「知らないおじさん花火に誘っちゃった」


「クククク、バカだ。フフフ、バカがいる。ククククク」


「仕方ないよ。執事さんが持ってきたも」


「普通、シャンパンでしょ。あんた分かってるでしょ」


「ジュースかと思った。次から気をつける」


 どうしよう。どこのおじさんだったのかな。

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