番外編・そんな男性に恋をした

第11話 仮面舞踏会の招待状

「田中ちゃん、おはよう」


「あっ、おばちゃん! おはようございます」

 おばちゃんは毎朝あいさつしてくれる。


 好きなおばちゃんの一人だ。おばちゃんが好きって変だと大学の友達にはよく言われるけど、別にいいじゃん。ここの人はみんないい人たちだよ。


「今日はどこに行くの?」


「京作おじさんのところに野菜届けに行くの!」


「京作さんて、お母さんの弟さん?」


「そうそう」


「京作さんも仕事ばっかで買い物に行く暇もないだなんて、少しは休めばいいのに」


「おじさん仕事が命だから」

 本当に命なんです。空き缶集めないと生活費ないんです。



 おじは自給自足の生活をしている、といえば聞こえがいい。



 北の丘の近くの森まぁおじいちゃんの土地でのうのうと暮らしている。

 仕事は清掃業ということになっている。

 ちゃんと町の人に分からないよう、空き缶は山を越えて売りに行くみたい。



 ただ最近、おじの、のうのう生活にも危機が訪れている。



 玉名グループの大きなホテルの建設予定が北の丘辺りで持ち上がったのだ。



「田中さん。出て来てくださいよ。こちらも誠意をもってきたので」

 森を抜けると小屋の前のスーツ姿のおじさんが三人、一人が小屋に向かって話しかけていた。


 後ろのおじさんの顔はなんだか険しい。


「お前らに会う面なんてねぇよ、とっとと帰れ」

 小屋の中からじゃなくて、外に出ればいいのに。


「私たちもこの町の魅力を世界の人たちは知るべきなんです」


「ここは俺のひい爺の時からの土地だ。簡単に渡すわけにはいかねぇ」


「一千万用意してます。前金です。今日はここに置いて帰ります」


「一千万? あっ、いや。いらねぇよ」

 おじさん声が震えてる。



「社長、今日のところは」

 声を出していたおじさまがため息をついて、帰ろうとしていた。


 なんだかため息おじさまセクシーだなー。パキッと足元で音がした。うわ、やべぇ。


「誰だ」

 誰だと言われたら、すごすごと出て行くしかない。


「私はあっはぅ、とっとっと」

 私は田中家の次女、田中と言おうとしたら草のつるにひっかかった。


 ぽすんと何かがっしりしたものに当たった。


「大丈夫かな? お嬢さん」


「社長!」




 大学にて、同級生のそらちゃんに言われた。

「田中、最近変だよ」


「いやそらちゃん、なんでもないの。私は修行僧の気分だよ」


「禁欲? ならそのケーキはいらないわね」


「あーん、そらちゃんのいじわるー」


「それで私の話聞いてよ」


「あれでしょ、年上の、パパ?」


「か、れ、し!」

 大学で同じクラスのそらちゃんには最近年上の彼氏が出来たらしい、でもそんなことどうでもいいので、私は修行僧の如くケーキを食らう。



「どうでもよくないでしょ!」


「いいよ。きゃっきゃうふふなんでしょ?」


「それあんた意味分かってる?」


「遊園地行ってないの? 動物園とかさ!」


「あんた分かっているか分かってないかホントわかんない」


「年上か」


「何々? 田中ちゃんにも憧れの男子が?」

 憧れっていうか一回しか会って無いし、どこの誰かも分かんないし、がっちりとした体だったな。



「おじさーん」


「あら、田中ちゃん。いらっしゃい」


「あっ、ケンタさんじゃん。久しぶり」

 ゲイのケンタさん。以上。


「待て、俺の小屋にゲイと俺が二人っきりじゃ、出来ていると思われるだろ」


「違うの? ケンタさん」


「違わないわ。海よりも深くケツで繋がってるの」


「おじさん、パートナーは大事にしないと」


「だから違うっつてんだろ!!」

 ケンタさんはおじさんのお友達だ。詳しいことは知らない。


「学生の時からの友達だって言ってんだろ」


「学生時代の友達なの?」


「心身共につながった連れよ」


「ややこしくすんな!!」


「それはそうとパーティーがあるの。仮面舞踏会よ? ウフフ」


「仮面舞踏会?」


「なんかホテルの玉名グループが市民交流会って名目でやんのよ。甥っ子が玉名の部長で席ゲットしちゃった。そこの朴念仁ばかやろうだってむくれるから一緒に行きましょ」


「行ったらお前絶交だかんな」


「社会勉強よ。市民交流のくせして席の券がいるって不思議よね。なんか企みがあるのかしら」


「この辺の企業向けの会なんだろ」


「あら、こういうはっきりしたとこも大好き」


ってなんだ。も、って!」

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