第10話 終わりの終わ

「悪い子ウサギは碧青ちゃんでは無いことを祈ってるわ」

 近くに寄ってきた真浮華さんは私の耳元で囁いた。


「え、どういう」


「あの時期に隼人の近くにいたのはあなたなの。嘘ついてるなら、化けの皮削ぐわよ」


「よくわかりません」


「信じてるから」

 そういって、奥の部屋に入って行った。


「さぁ、みんな。今日は私が腕にかけて料理を作ったの。食べに行きましょ」

 あれほど、信用していないも珍しい。


 これはきっと泳がされている。でも、私には失うものは無い、胸を張って野口さんに会ってやる。


 テーブルマナーなんてへったくれも無かった。


 真浮華さんは目に見えてイライラしていたが、私を見てはら柔かい笑みを浮かべた。


 途中から仕事の電話と言い、野口さんは居なくなった。

 

 海さんはフォークを三度落とした。

 渚さんはエビチリを落としまくり、小河原君はシャンパンに酔って爆睡。

 ひどい昼食会になった。


「私、ちょっと疲れたから横になってくる」

 そう真浮華さんが告げて自室に行ったのは納得の一言だった。


「えー、真浮華さんもっとしゃべろうよー」


「海が落としまくるから」


「玉ちゃんも落としてるし」


「小河原君、小河原君」


七菜香ななかのおっぱい気持ちいい」

 小河原君にドン引きした。


 奥さんおっぱい大きいのか、と自分の乳を見てそっと嘆いた。


 時間を見ると四時半。密会には充分な時間だ。



「碧青。会いたかった」


「隼人さん、私も!」


「指輪つけてくれたんだね」


「だって、私は隼人さんの一番なんでしょ?」


「一番、まぁそうだね」

 含みのある隼人さんに一抹の不安を感じた。


「私パン屋に勤め始めたの! メロンパンが美味しいの。フランスパンのお店なのに」

「ルディスタンってお店、今度来てよ! 外国の言葉で運命っていうの。まるで今日みたい」

「そこには佐々木お姉さまと種田お姉さまがいてね!」


「碧青!!」


「何? 隼人さん」


「もう終わりにしよう」


「今日会って分かった。君はすごくきれいになった。でも私はもう四十だ」


「なんで、何を言ってるの? 隼人さんにとって私は一番なんでしょ? 歳なんて関係ないわよ」


「来年、子どもが生まれる。これで終わりなんだよ」


「嘘。だって」


「不妊治療は成功したんだ。だからもう終わりだ。指輪も捨ててくれ」


「そんな」


「君が捨てれないなら、俺が捨てよう」

 彼は私の薬指から、指輪を掴み、海に投げ捨てた。


 私は捨てられた。海に捨てられた。


「さようなら、荷物を持って帰ってくれ」



「あっ、碧青さん。一緒に人生ゲームしましょうよ」


「ごめん、小河原君。先に帰るね」


「碧青さん、え、ちょっと待って、碧青さん!」



「これで良かったの?」


「君がやれって、言ったんじゃないか」


「ね、真浮華さん。私の言った通りでしょ?」


「海さん。日向君より役に立つわ」


「玉ちゃんはほだされるから」

 海は自嘲気味に笑った。


「でも指輪は捨てれないのね。可愛い人。それくらいなら許してあげる」


 嘘だ、嘘だ。一番だったのに、一番なのに。

 私だけが心を乱して、心を保ってきたのに、これは無いよ。

 幸せそうに生きやがって。家も家族も一番に手に入れて、私には何もない。

 私は一人電車の中で、滂沱ぼうだの涙に明け暮れた。


 第二部完


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