第9話 あの人との再会

 海ちゃんが去った後、渚さんが、それでと打ち出した。


「本家の真浮華さんがコンビニバイトの後輩さんたちを呼んで、お食事会でもと言っているんだけど、ズバリ聞くけど碧青ちゃんって、兄貴の不倫相手だよね」

 どこで見抜かれた。いや、ここは弁解の余地がある。


「違いますよ。野口さんは先輩です。それ以外の関係性はありません!」


「でも聞いちゃってさ。思い出ボックスの中に碧青ちゃんの名前あったの」

 待て、私の名前が書かれている物を渡したか? 答えは否だ。

 渡していない、ただ野口さんが彼女リストなるものを作って、書いていたならそれはまた別の問題だ。


「そんな……」

 あっ、これはフェイクだ。

 普通の関係なら、『思い出ボックス』の存在なんて知らないはずだ。

 それが暴かれたのは小河原君が入っている時に来た奥さんがロッカーを開けた時なのだから、小河原君さえも知らないボックスをなぜ私が知っているんだ。


「思い出ボックスってなんですか? よく分かりません」


「あっはっはっはっは、いや失敬失敬。思い出ボックスってのは兄貴が過去の恋人からもらった思い出を保存する箱なんだよ」


「はぁ」


「そこには碧青ちゃんの名前は無いんだけどね。真浮華さんはって言うんだもん。碧青ちゃんの身辺を調べろってうるさくてさ」

「仕方ないから聞いたの。ごめんね、変なこと聞いて。あっはっは、おかしい。兄貴の恥部ちぶあきらかにして、後輩にって、真浮華さんもおかしい。はははっ」


 一応、予定は伝えたので小河原君と日程を調整して食事会をひらくということになった。


 なぜ疑われたのか、どこかに罠があったはずだ。


 真浮華さんは私の知る真浮華さんでないことは確かなことだ。

「海辺に別荘で大金持ちじゃないっすか」


「今はオフシーズンだから、寒くて寒くて」


「魚は美味しいんだけど、真浮華さんも待ってるから行こ」

 小河原君と渚さん、海さんと訪れた玉名邸たまなていは本当に大きかった。


 洋館風でここにいるのはラスボスなのか、はたまた王子様なのかと戦々恐々としていたというのは正直なところだが、おくびにも出さない。


「海さん。私、浅学でテーブルマナーとか全然で」

 嘘。何回、野口と高いレストランに行ったか。


「大丈夫、真浮華さん。そういうのあんまり気にしないからさ」


「からさって言って、毎回フォーク落とすのどこの誰だよ」


「滑るんだもん仕方ないじゃん」


「うわぁ、洋館って初めてっす。この壺高そう」

 小河原君がチョンとついた壺が台から落ちそうに、なった時脇から影が飛び出し、壺をすんでのところでキャッチした。


「小河原、あぶねぇぞ。気をつけろ」


「あっ、野口さん! 映画あの後碧青さんと言って、告白したらOK貰って」


「それで碧青と結婚できたか?」


「しなかったっす」


「できないじゃなく、しないとは小河原も大きくなったな」


「体っすか? デブと言いたいんすか!」


「おう、碧青。久しぶり」


「久しぶりです。野口さん」


「小河原も碧青も、もう野口さんじゃないっつうに」


「兄貴久しぶり。老けたな」


「うるせぇ、お前と一回り違うんだ。当たり前だ」


「こんにちは皆さん」


「あっ、真浮華さん久しぶりです」


「海ちゃん、久しぶり」

 真浮華さんと海さん、小河原も声をかけに行った。



「碧青、五時半。岩場の陰で」

 隼人の小さな声に小さくうなずいた。



「海ちゃん、何が食べたい?」


「おっ、今日は隼人さんの釣りの成果すか? 伊勢海老で!」


「禁漁時期だから無理だわ」


「えー、聞いたのにー」


「相変わらず女性がいたら、すぐに食いつくんだから」


「真浮華。俺にはお前だけだ」


「もうすぐに誤魔化す」


「真浮華さん、お久しぶりです」


「碧青ちゃんひさしぶり! 元気だった?」

 真浮華さんの顔が華やいだ。


 これ、真浮華さんはこんな顔の人だった。

 

 よく二人の家には遊びに行ったものだ。ん、これどこまでバレているんだ?

 真浮華さんは思い出ボックスを発掘した。それはアクアの中にあった。あの時期に野口さんは不倫をしていた。これくらいなのか。


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