第8話 好きだったんだよね
「へぇ。野口さんって結構多いんっすね」
そんなわけないだろ。
「あのしし座で」
「はい」
「チキンとコロッケばかり食べて、プリンが好きな隼人さんですか?」
「兄貴のこと、よく知ってますね。あっ、もしかして元カノ?」
「ち、違います」
「ホント?」
「ただのバイトの後輩です」
「え! 隼人さんってあの野口さんですか!」
小河原君、遅い。
遅い小河原君のおかげで話は一旦流れた。と思いたい。
「すげぇ、お世話になったんすよ。会いたいっす。でも野口さん、なんか閉店前にいなくなっちゃって、変だなって思ってたら転居が早まったんですね」
「そうなんだよ。
「野口さん不倫とかしてたんすかね」
小河原君、鋭い。
「碧青さん、どう思います?」
「不倫ってキャラじゃないでしょ。野口さん、奥さんとラブラブだったし」
「確かにそうっすよね」
君の単純なところは好きだよ。そこだけね。
渚さんがこっちをすぅっと見た気がした。
「なんですか?」
「いやぁ、夫婦漫才くらいしてたんじゃないの?」
「そうなっすよ。碧青さんと野口さんコンビ愛がすごくて!」
「息ぴったり?」
「モチのロンっすよ」
「そ、そんなぴったりでもなかったですよ!」
「またまたぁ」
「でもきっと好きだったんだよね?」
「え?」
「兄貴のこと、好きだったんでしょ?」
「当たり前じゃないっすか、ね? 碧青さん!」
「そうですね。先輩として尊敬してました」
その顔で好きとか言われたら、もう心臓が大変なことに!!
「もう駅だな。嫁の為に帰らねば、小河原も帰るぞ。また連絡するね。じゃ」
「おやすみっす碧青さん!」
一人になった。
けど、こうやって縁は繋がっていくもので、そっかあの人は野口さんの弟さんなのか。
野口さんとは会えなくても、野口さんとそっくりな人とはこれからたくさん会うんだろうな。
奥さんが復活して、お店に来る限りは。
「こんにちは碧青さん! この前はありがとうございました!」
渚さんの奥さんは犬みたいな人だった。
「あの日の話をしたら、碧青さんに会いたいって」
困ったように笑い、野口さんと似た表情で頭を掻いた。
「碧青さん何歳ですか!」
お姉さま方が「碧青ちゃんに友達が出来た」と、言って裏口で休憩を取らせてくれている。
「私は二十九です」
「わぁ、私とおんなじだ!」
「え、そうなの? 全然見えない」
「じゃあ、碧青ちゃんって呼ぶね! 私、
「世話になったのお前だろ」
人の脇に入るのが得意な人だなと感動、犬みたいな性格で私もこれくらい正直だったらなぁと思うのは仕方のないことだろう。
「だってさ、隼人君の後輩なら親戚みたいなものでしょ」
「それは言い過ぎ」
「パン選んどいで、後で行くから」
「はーい、浮気すんなよ」
あれ? 海さんハイライトオフ?
「旦那を信じろよ」
「名刺、
ははは、と。渚さんが引きつった笑いを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます