第2話 幸せじゃないって誰が決めたの?
「いやー、あおさん。どうやったら映画一緒に行ってくれるかなー」
珍しく碧青はシフトに入っていない、夜勤に交代の時間になった。夜勤の小河原が「相談がある」と、声をかけてきた。
「映画?」
「カンフーパンツ争奪戦フォーティーエイト」
「なんかすごそうだな」
「今期最大の感動系っす」
「え、感動系なの?」
「涙ボロボロっす。野口さん。あおさん誘ってダメだったら骨拾ってください」
「え、やだよ」
「もうチケット取ってるんです。一緒に観に行ってください」
「小河原、それ順番逆だから!」
「男の人ってアホですね」
「いや小河原がアホなだけだから」
今日は交際二年記念。
奥さんが帰省中だからって、ちょっとお高いホテルのバーラウンジで二次会をしている。ご飯もめちゃくちゃ美味しかった。
「この後、どうすんの?」
「どうしたい?」
今日は奥さんいない日、ホテル。彼の家に行くのもアリだけど、この状況なら……。
「ホテル取ってるよ。このすぐ下」
「すぐ下。まぁ、……。え! 下?」
「スイートルームでございます」
「大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫」
体を重ねる。
その一瞬の幸福で私は満たされる。
「ただの帰省?」
「よく帰るから」
「そうなんだ」
コトの後にすぐに寝ずに話に付き合ってくれる彼は優秀だ。
今まで付き合った人でソコまでいった人は寝たり、タバコ吸ったりと数多いたが、後ろから抱きしめてくれる安定感はどの歴代彼氏で一番。
野口の奥さんはよく実家に帰る。あんまり知らないけど、夫婦で不妊治療をしているらしい。
この関係も『仕事先にバレたらやめる』、『奥さんにバレたらやめる』、『子どもが出来たらやめる』の三ヵ条を野口と確認し合っている。
あの頃はまさかここまでお互いがハマってしまうとは思っていなかった。
野口は結局大人の余裕ってやつで、一線を引いて身体だけのさっぱりとした関係を読んでいたのに、今では身体も心もずぶずぶ状態。
余裕? 一線? はて。
「大好き」
「碧青のこと大好きだよ」
「や、もっと言って」
「大好き。もう俺が碧青を幸せにしたい」
幸せなんて。
どっちも分かっている。
ここから両者が幸せになれるエンドなんて訪れない。
でも、もしこの人と一緒に暮らせたら、あり得ないけどもし幸せになるなら、私はこの人しかいないと思う。
その現実を打ち消すかのように私は彼の身体をまさぐった。
一人暮らしの家に朝帰りなんていつものことだ。
連泊はしないことがお約束だ。我が家にはチェリー様がいる。
チェリー様とは猫様だ。
私の家族はチェリー様だけ、お給料は野口に費やすことは無い。
なぜなら野口の方が金持ってるから、他にはまぁ多少使う用はあるけど、それもほぼパパが出してくれる。なのでお給料はチェリー様に捧げている。
キャットタワーも買ったし、後はおやつの種類と美味しいご飯を維持。
新たな猫様の導入も考えないといけないかもしれない。チェリー様の為にも新しい猫様の為にも遊び相手は必要だ。
「おはようございます」
「あっ、あ、あ。あおさん! おはようございまっす」
「あれ? 小河原君。シフト入ってたっけ?」
「いやなんか野口さん急用でシフト代わったっす」
「急用?」
「なんか奥さんがどうのって、あ、それより今度映画行きません? 『ゾンビが町にやってきたらどうするか君』っていう学園ものなんですけど、一緒に行きたいなって、もうチケット取ってるんでどうですか?」
「映画はいいかな。うち猫いるから、あんまり家空けれないし」
「え? 猫飼ってるんすか! 何猫ですか?」
「何猫ってなによ。小河原君必死過ぎ」
つい笑った。小河原君が呆然とした気がした。
そこから何をどう話しかけても小河原君は上の空で、仕事も大変だった。
帰ると野口からLINEが来ていた。
心配することはない、久しぶりに
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