そりの鐘が鳴る頃に

「その子がアイちゃん?」


帰ってきたキャロルの腕を指差し、質問する。

キャロルは浮かない表情で小さく頷く。


「どうしたんだ、いつも元気有り余って馬鹿騒ぎしてるくせに。どじでも踏んだか?」

「ノエル達が居たんだよね。」

「うわー、あの人も意地悪いなぁ。それで、どうしたんや?」

「取り合えず、挨拶だけしてきた。」

「伝えたい事は伝えられた?」

「まあね。でも、あの子に今さら味方宣言してもね。あの子は許してくれないよ、絶対。」

「・・・絶対とは、限らんのんちゃう?」

「え?」

「いや、心の中で恨んどっても縁は切れる訳じゃないし、恨んどったらあんな悲しそうな顔、せんのんちゃう?」

「・・・見てたの。」

「まあな、気になったんよ。ルーちゃん、何だかんだブラコンやし。それに弟の成長ぶりも見たかったしな。」

「えっちょっと待って、初めて聞いたんだけど。」

「ユールくんってルクの弟だったんだー。初めて知った!」

「似てねぇな。」

「一寸、皆してー。そんな以外?俺とユール全然似てない?」

「全く」

「うーん、言われたら何となくそうかもー位?」

「分からん。」

「一寸皆酷い!」


「んー、あれ、おねえちゃん?」


いきなり聞こえた声に驚いて腕の中に視線を送る。

そこには目を擦っ寝ぼけ眼でじっと見つめているアイの姿が。

それを見た途端、今度はルクスに冷たい視線が送られる。


「ちょ、俺の性?」

「どう見ても、お前が大声出したからだろ。」

「まあ、いいよ。どうせ起こすつもりだったし。御免ね、アイ。お姉さんが結界取っちゃったから危険な目に遭わせちゃって。」


ふるふると首を振るアイ。

それを見た後、呆れ顔でキャロルに問いかける。


「と言うか、何処をどのようにしたら、俺の張った空間壊せんだよ!」

「あのときは記憶もなかったし、急いでたから。仕方ないでしょ。」

「たく、お前は。」

「まあまあ、それよりもちゃっちゃと終わらせちゃおう。ええっと、アイちゃんって言うんだっけ?私の名前は、リース。アイちゃんに質問があるんだけどいい?」

「なあに?」

「アイちゃんはサンタさんになりたい?」

「え、サンタさん?」

「そう。サンタさん。」

「アイになれる?」

「うん。どうする?」


アイはキャロルの顔をじっと見つめる。

その意思を汲み取ったのか、自分で選んでいいよ。と諭した。


「なりたい、サンタさん!」

「よぉし、分かった。じゃあ目を瞑って十数えて。」


アイは指示に従って目を擦って十から数え始める。

その間に、リースは手の中から赤いリボンのついたピンク色の箱を出し、アイの頭の上に置き、リボンをスルスルと引っ張る。

赤いリボンが完全に解けた後、ピンクの箱が白い煙に変化しつつ、アイの周りを取り囲む。

仕上げに赤いリボンを蝶々結び。

胸辺りにリボンを煙の中に沈めた。

最後の数字をアイが言ったとき、周りの煙が風で取り払われ、赤いサンタ帽子に裾にファーのついたポンチョ、フワッとした裾フリルスカート白いハイソックス、黒いローファーを履いたアイが居た。


「うわー、かわええな。」

「可愛いな。」

「可愛い!」

「似合ってるよ、良かったね、アイ。」

「前々から思ってたんやけど、ルーちゃん、おかんみたいやな。」

「あー、それ分かるな。まあ、昔から気にかけてたもんねー。」

「まあな。それでキャロル、アイちゃんはリースに任せるってことでいいんだよな?」

「え、お姉ちゃんと一緒じゃないの?」

「お姉ちゃん、お仕事行かなきゃなんないんだよね。」

「いやだ、おねえちゃんといる!おねえちゃん前にやくそくしたもん。アイとまた会えたら今度こそずっといるから、それまでここで大人しくしててね。って!だから、いやだ!」


大人しかったアイが急に泣きながら言った言葉に途端、胸が苦しくなる。

どうしようかと悩んでいると、リースがある提案をする。


「サンタは本当は14才以上にならないとなれないんだよね。それ以下の子はサンタの卵。アイちゃんは見立て7才ぐらい。サンタになるまでの期間はまだ充分ある。サンタになると責任者は私になるけど、サンタの卵は基本誰が育ててもいい。だからさ、それまでキャロルが育ててみたら?」

「え、私?」

「おお、それええな。約束も守れるし!どうせルーちゃんの事やから、こっそり様子見に来るつもりだったんやろ?」

「うぐっ!」

「部署が違うのにこっち来られても迷惑だからな。いいだろ、それで。」

「・・・アイは?それでいい?」


それを聞いて、鼻を啜って、涙を拭き、笑顔で、うん!と頷いた。


「それで決定やな。」

「私達も直々来て様子見に来るけどいいよね?」

「断る理由はない。いいよ、全然!」

「あの家、使えたか?」

「あー、使えるんじゃない?分かんないけど。」

「じゃあ一先ず、行くか。」


そりに乗り込んだ後、そりが浮かび、ミルキーウェイに沿って、進めていく。


星が往来するなか、そりの鐘の音が空に響き渡り、音が雪に変化して町に降り注いでいく。


そりのジングルベルが鳴る頃に、見知らぬ歯車ときが動き出す。

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Lining Chrstmas コンダクター 日向月 @ito2019

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