迷宮からの脱出

何れ位走ったのかな?

あの二人は追ってこない。と言うか。


「ここどこ?」


いつの間にか薄暗い入り組んだ路地裏が目の前に広がっていた。

ここはまだあの人たちの言う"私の作った世界"の中なのか?

でも、こんな路地裏知らないし、そもそもそこに入った事もない。

こんな所早く出ようと振り向くと、そこに道はなく、"そのまま進んで"とご丁寧に落書きされた高い壁がたたずんでいた。


「何処でこんな所入っちゃったんだろ?此処ってあの人たちの罠だったりする?だとしたら進みたくないなー。」


まあでも進まないと何も進みそうにないので、手のひらで転がされてると分っていながらも進むしか選択肢がなさそうだった。












何度も行き止まりに遭遇しながら進んでいく。


段々右も左も分からなくなり、もう気力も喪失しかけ、近くの木箱に腰かけ、半分呆れ気味に今の思いを呟いた。


「さて、どうしたもんかな。同じ景色の中進んでも到着できる自信無いんだけど。もしかして、あの人達の目的って私の気力を削ぐ事だったのかもねー。それなら、私はまんまと作戦に嵌まった訳だ。本当、どうしよう・・・。」


少しの間、打開策を考えていたがいいと思える案は何一つ思い浮かばなかった。

進まないと仕方無いので、立ち上り進む。

ずっと真っ直ぐ進むとまた別れ道が。


「もう嫌になるんだけど。さて、神様も宛にならないし・・・んー、こっちかな?」


左を選んで、道なりに進んでいく。

しかし、ここも袋小路で行き止まり。

とうとう勘も宛にならなくなったようで、天を仰いで、溜め息を吐いた。

取り敢えず戻るために振り向くとさっきはいなかった女の子が笑顔で此方を見つめていた。

髪は白く腰ぐらいまであり、目は赤に近いピンク色。

一体何処から来たのか問おうとした時、女の子が先に声に出す。


「おねえさん、みーつけた。」


その言葉で全てを理解するのにそう時間はかからなかった。












「君、ノエルさん?」

「おねえちゃん、何言ってるの?"きょうの"おねえちゃんなんかへん。」

「今日の?いや、今日あったばかりなのに"今日の"って。」

「え、おねえちゃんもしかしてアイのことわすれてる?」

「え、アイ?」


よく聞く言葉の筈なのに、その言葉が心の中で引っ掛かった。

アイ、アイ?

何度繰り返してもその理由は見つからない。

でも引っ掛かりがあるのは確かだった。


「アイちゃん御免なさい。貴方の事、記憶にないの。でも、貴方の名前に何か引っ掛かるの。でも何かは分からないんだけど。」


そっか。とその子は明らかに顔を曇らせた。

普通この年なら泣いても可笑しくないのに泣きもせず、少し汚れた白いワンピースのポケットから何かを取り出して私の手に乗せる。


それは黄色く光る星形の物だった。


「むかしおねえちゃんがね、"もし私に会った時にアイの事覚えてなかったらこれを渡して"っていってた。おおねえちゃんがちかくにいたらこのほうせきがひかるっても。」


その話を聞いて、再度それに目を向ける。

よく見ると、それの中央が鈍く光って少しシルエットの様なものも見えた。

透かしたら分かるかと思い、唯一の光源である月にそれを向ける。

すると、その鈍く光っている物がそれから落ちる。


「え、何か目に入った!」

「え、だいじょうぶ?!」

「痛くないし大丈夫だと思うけ」

「どうしたの?」


言葉を繋ごうとした時、何かの走馬灯が目の前を横切っていく。

動きが止まった私を心配そうに見つめるアイ。

あぁ、そう言うことだったんだ。


「んー、何だろ。大体の事は思い出せたよ。有り難う、"アイ"。」


その言葉を聞いて、曇った顔が明るくなる。

少し泣きそうな顔をしたアイの頭を撫でて言う。


「アイ、一寸お姉ちゃんやらないと行けない事が出来たんだよね。それにかたが着いたら、迎えに来るからそれまで待ってて。」


アイが元気に頷いた後、後ろには壁はなく外に出るとまた人が一人もいない殺風景な町へと戻って来た。


「まだ来てないのかな?まあ、どこへ逃げてもノエル達には見つかるだろうし・・・取り敢えず、やらないと行けない事はしようかな?」


回りを見渡して目的が果たせそうな所を探す。

建物の間から一際高い高層ビルが、顔を覗かせて、此方を見ていた。


「彼処でいいかな。時間は・・・10:30。間に合いそうかな?」


まあ、間に合わないとこっちもヤバイんだけどね。

約束は果たせるかな。

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