ブラスト・ブッカケ・ブレット

あめのちあさひ

ピンク

 むかし嫌いすぎてバックレ退職した会社の近くの映画館にやってきた。終戦後の日本に降り立ったマッカーサーの気分だ。ピンク映画である。いまどき映画だなんて効率がよくないという指摘を受けるかもしれんが、オレは昨今の情報化社会において性の快楽にすらスピードを重視する風潮が気に食わんのだ。じっくり溜めてあたためて、撃つ。それでいいじゃないか。放射した精液をバックレ退職したブラック企業にぶっかけてやる。バックレ退職したブラック企業に復讐しにきたのだ。リメンバー・パールハーバーの気分である。憤激の銃弾が悪を貫く瞬間を動画に収めてSNSに投稿して、われ英霊にならん。カメラ撮影はエロ友達であるカメラの北村くんに頼んだ。カメラの北村くんは気の置けないエロ友達だからすぐに引き受けてくれた。計画をきかせたところひとこと目の感想は「ロックだねえ」だと。

「ロック、てなんだ? 意味わかんねンだが」きいてみた。カメラの北村くんはインテリだからしばしば難しい表現を使うのだ。

「意味はないよ。世のひとびとはみんなちょっと強い言葉を向けたら"ロック"だとか評するじゃん。そいつらの真似だ。意味はないけどそれっぽいコメントしなきゃ悪いかなと思って人口に膾炙した単語を選んだだけだ。本気でロックだなどと思ったわけではない。ユーノー?」

「ユーノー、ってなんだ? 意味わかんねンだが」

「理解したか珍カス、ってことだ」

「理解した」あまりわからなかったが理解したことにした。

 無駄話をしているとまもなく場内の燈が落ちた。映画が始まるのだ。予告編なく、いきなり本編。タイトルは『団地妻鉄条網エロ妄想突破崩し』長えな。要素が多すぎてどういった内容なのか想像もつかねえ。テロップが流れる。「これからあなたがたには殺し合いをしてもらいます」ピンク映画館に入るのは初めてのことだが、てか看板をよく見ないで雰囲気ピンク映画館っぽいからここはピンク映画館なのでろうというカメラの北村くんとの意見の合致をもって入ったんだが、そもそもここは本当にピンク映画館なのだろうか?

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ブラスト・ブッカケ・ブレット あめのちあさひ @loser_asahi

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