遭遇

「そっちのみちはいや」

 屋敷に帰る道すがら、綾がそう言って愚図った。

「どうして?」

「こわいのがいる」

「怖いのは鳶丸さんがやっつけてくれるから大丈夫だよ」

 それでも首を振る綾に鴉太郎は困惑する。

「何かあるのかな?」

 先を行っていた栄吉が二人の様子に気付き引き返してきた。

「綾が、そっちの道は嫌だって」

「そうかぁ、じゃあ、ちょっと遠回りだけど違う道で行こう」

 訳の分からない我儘にも関わらず、栄吉は嫌な顔一つせずにそう提案した。

「すみません」

「何が?」

 栄吉の背中へ投げかけた言葉の返答は問いかけだった。

「我儘ばっか言って。おれ、絶対足手纏いだった。ほんとは見張りなんかいらなかったんじゃないかって。きっと鳶丸さんの方が早く見つけられた。綾も、綾が来ちゃったから栄吉さんまで帰ることになって、さっきも・・・・・・」

 とぼとぼとした足取りはいつの間にか止まっていた。栄吉はこちらを振り返り、腕を組んでは困ったような笑みを浮かべた。

「正直否定できないけど、なんだかなぁ。鴉太郎君は拘り過ぎな気がするなぁ。子供なんだからもっと気楽でいいと思うんだけどなぁ。気持ちだけでも十分嬉しいし」

「・・・・・・」

「納得できないかぁ。ならあいつにびったりくっ付いとくといいよ。意外と莫迦だから」

「・・・・・・はい」

 鴉太郎は渋々頷いて足元に視線を落とした。

「あ、後ね。綾ちゃんのこともさ、一寸思うところがあってね」

「ん?」

 名前を呼ばれて、半分眠りかけていた綾が目を擦る。

「昨日は鳶丸が探して見つからなかったのに、今日はやけにあっさり見つかったと思わない? これ、なんかおかしいよね」

「あ・・・・・・」

 今更そのことに気付き、鴉太郎は小さく声を上げた。

「なんか嫌な予感がするんだよね。子供の勘は鋭いって言うし。ここはさっさと屋敷に戻った方がいいかも。魔物もやけに遠かった。なんか、引き離されたような気がする」

 栄吉の口から出て来たにしては案外真面な話に、鴉太郎は目を丸くした。

「鴉太郎君、おれは今君が何を思っているか手に取るように分かるぞ。おれってそんなに阿保っぽく見えるかなぁ」

 不意に、錆臭い匂いが鼻腔を撫でた。

「・・・・・・ッ! 栄吉さんッ・・・・・・!」

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