第2話
ドギマギドンパチドキドキラブラブ学園物語。
この凝ったタイトルと凝った作りと、戦略パートという「〇〇の野望」みたいな全く違うジャンルの要素を取り込んだこのゲーム。
そっちの要素も恋愛シミュレーション要素を食い破るほどにめちゃくちゃ凝った作りに仕上がったことで、2つの界隈のファンを獲得し人気を博した。
この乙女(疑問)ゲームは、舞台となる大陸に存在する国家の1つ、アウラシュニカ王国の王侯貴族子女たちが通う「王都貴族院学園アウルサンネ」という学園を舞台に、先王の遺児であるヒロインが学園内外で攻略対象者たちとイチャラブしたり、悪役令嬢の妨害に打ち勝ったり、小遣い稼ぎに戦場に立ったり(※突っ込むのは無粋だよ※)して活躍する、というのが基本的な流れである。
最終的に先王の遺児であることが発覚し、女王となってアウラシュニカ王国を率いることとなり、隣国ドラウグル大帝国の侵略から祖国を守るために戦うのだ。
学園では攻略対象ごとにストーリーが異なるが、学園生活を通じて恋愛パートを進めて特定のルートを達成し、その後は多少の差異はあるが各ルート共通して女王に即位して、最後にドラウグル大帝国と戦い勝利するというまでが基本的な流れとなる。
しかしこのラスボスのドラウグル大帝国は物語の舞台において大陸最強を誇るだけあり、ラスボスらしくルートごとに違いはあるけど共通して戦略パートにおいては最高クラスの難易度を誇る。
攻略対象には別の国の王子がおり、彼との親密度が一定以上あれば同盟を結んで援軍を得ることができる。
この援軍の存在の有無はかなり大きいため、戦略方面が素人のプレイヤーには彼の協力が間違えなく必須であろう。
攻略対象は全部で4人。
王子様キャラであるアウラシュニカ王国現王の長子でヒロインのいとこ、オズワルド・コハン・アウラシュニカ。
年上キャラである大陸屈指の強者揃いの伝説の傭兵団「鮫牙師団」の首領、ウィリアム・グレンギース。
知的キャラであるアウラシュニカ王国の友好国「パルゲニア王国」第一王子、シャルル・ド・アストレア。
逆ハーレムルートまでのすべてのストーリーをクリアした後に攻略が可能となる、隠しキャラ兼人外キャラであるアウラシュニカ王国宰相子息(養子)で絶滅したはずの吸血鬼族の最後の生き残り、ブラッド・エグゼキューショナーズ。
学園では2人の王子、戦場ではウィリアムとの交流ができ、交流を重ねるごとに親密度が上がっていく。
親密度が一定のラインを超えたらイベントが発生し、キャラのイベントをコンプリートしたらその攻略対象のルートがクリアとなり晴れてその相手と結ばれる恋愛パートのエンディングに向かっていく。
エンディングを迎えたら、主人公が王族であることが判明するイベントに移り、女王になってドラウグル大帝国との戦いに備えるパートに移っていく、というのが基本的な流れである。
その他システムには主人公の能力値とその育成もあり、これは戦略パートに大きく響いてくる。
勉強だったり、運動だったり、小遣い稼ぎという名の傭兵稼業(※突っ込むのは無粋だよ※)であったり……
親密度を上げるには、物を贈ったり、会話をしたり、ウィリアムなら戦場で救援に入ったり……そういったことで親密度は上がる。
逆に途中から出てくるそれぞれの攻略対象のライバルとなる悪役令嬢(一部令嬢ではないけど)たちの妨害によって下がることもある。
親密度の上げやすさが攻略難易度に直接的に影響しているが、一番楽なのはシャルルだろうか。ラストの帝国との戦いで彼のパルゲニア王国からの援軍を得るには親密度を半分くらいのところまであげる必要があるのだが、彼のルートに限っては悪役令嬢がいないため親密度が下がることもなく、他のキャラに比べて半分までは親密度が上がりやすい設定となっている。半分くらいからはやや上がりにくくなってくるが、本気で彼の攻略を目指すというならともかく援軍を得るだけが目的ならば簡単なので主人公の育成にも時間をかけることができるし、戦略パートでも彼の王国の援軍の有無はクリアにかなり影響が大きいので、攻略は一番簡単だろう。
逆に一番難しいのが、隠しキャラのブラッドだ。こいつ、かなりぶっ壊れた性格をしているので、イベントでは簡単な選択ミスですぐに親密度関係なく主人公を殺しにかかるというブラッドルート専用の「攻略対象によるデッドエンド」に走り出す。もはや別のゲームではないのか?とか、ブラッドルートの製作陣だけ違うのではないのか?とか疑われるほどに他のルートと様相と難易度が違う。
それに他の攻略対象と交流を重ねると親密度も低下しやすくなるし、親密度自体上がりにくく恋愛パートに時間が必要なのでヒロインの育成が進まないし、こいつのルートに限って戦略パートも難易度が激難仕様となっており、最後のドラウグル大帝国との戦いではシャルルの援軍有りでもシャングロの用兵が化物のように強いのだ。
ブラッドが味方について吸血鬼の力を解放することで最強キャラの覚醒を起こし無双することが可能となるとはいえ、ブラッドルートのシャングロ率いる大帝国軍はそれを補って余りあるどころか平気で最強キャラの部隊も軽く潰してしまうという鬼畜の性能を有している。
まあブラッドは隠しキャラという立場上、他の三人の攻略対象+両王子ルートと逆ハーレムルートをクリアしてそのすべてのルートにおけるシャングロを撃破しないと解放されず、普通にゲームをする分には関わりを持つことさえない存在だから、そこまで熱入れてやるべき相手でもないけど。
オズワルドはメインキャラでありパッケージも主人公を差し置いてセンターを獲得している、乙女ゲームの王道を行くイケメン・天才・王子様の要素を兼ね備えた存在だ。現実的に考えると、この有能な王子が率いることになるアウラシュニカ王国がドラウグル大帝国の侵略を阻む最大の障害となるだろう。
論外キャラのブラッドは攻略が難しいため不人気だろうと思われたのだが、イベントはいろんな意味で一番過激なものが多く、女性ファンの人気は花形のオズワルドに匹敵する勢いで高かった。私は理解不能だ。そして関わりたくない。
シャルルは難易度もイベント方面も安全牌なせいか、この2人に比べると人気は少ない。私としては彼のような誠実で心優しい人物こそ人気を得るべきではないのだろうかと思うのだが。他国の王族である以上、ドラウグル大帝国の将軍である私とは確実に敵対することになる相手だが。
ウィリアムは……『兄貴』とか『親分』って感じの存在である。妹はウィリアムが一番好きだと言っているけど、こいつのルートは学園に比べて毛色が違う乙女ゲームに似合わない方面に振られているからか、一番女性ファンの人気が少ない(鬼難易度に加えてホラー要素も多数入っているブラッドが1番似合わない方向に振られているはずなのに、なぜだ?)。
戦略ゲーム、アクションゲームの要素を楽しみたいならどうぞ、という感じのキャラだろう。
4人の攻略対象は、乙女ゲームの攻略対象というだけあり、全員美形である。
オズワルドは金髪碧眼のイケメンで、まさに王子様ってキャラだ。公明正大で、女性にも優しく、紳士である。花形というだけあり、乙女ゲームの攻略対象の王道を行くようなキャラだ。彼のイベントも王子様との恋模様というのを描いた煌びやかなものが多く、無駄にスチルもキラキラさせていた。今となってはどうでもいい情報だが、妹はあまりお気に召さないキャラだった。
シャルルはインテリ眼鏡、という感じだろうか。黒髪黒目の優男。物腰も落ち着いており、無感動な印象を受ける一方、常に落ち着いた態度で居ながらイチャラブのイベントを進めるシュールな……失礼。クールなキャラである。私にはシュールに見えるのだが、彼のファンはシュールとは捉えていないらしい。イベントもキスすら唯一ない健全なキャラだ。攻略難易度も相成り、ついたあだ名が「安全牌」である。同情を禁じえない。
ウィリアムは兄貴分だろう。ワイルドな風貌の赤毛の戦士で、豪快な性格である。常時衣装が毛皮鎧で半裸だけど、セクシーさよりカッコよさを重視したデザインだった。彼とのイベントには暑苦しいものが多いけど、ふと見せる戦場という舞台を通じて積み上げたウィリアムの価値観とか、涙誘う仲間との死別シーンとか、ドラマチックな要素が多く見える。台詞の1つ1つを見ると、現代社会にも通じるものがあり、乙女ゲームの攻略対象がもったいないなんて言われる評価もされたキャラである。全体を通して、とにかくかっこいい人物だ。前世の妹一押しのキャラでもある。私も彼が1番人間として好きなキャラだった。
ブラッドは、はっきり言って血なまぐさい。一見は優等生だが、その精神は銀髪赤目で端整という吸血鬼然とした不気味な風貌を表すようなヤンデレである。攻略は難しいし、イベントもグロさエロさともにダントツでトップクラス。R18指定するべき問題案件多数抱えたキャラだ。こいつとは、今世は絶対関わりたくない。アウラシュニカ王国じゃなくて嬉しかったの、こいつと関わりを持たなくて済むことだ、間違えないな。子供どころか大人でもショック受けるスチルも多く抱えた、まさに問題案件である。しかもホラー要素もあるし。だからこそ隠しキャラであり、他のルートでは本性見えない登場人物だったのだろう。
その他、シャルルを除いた3人の攻略対象にはライバルキャラ、いわゆる悪役令嬢が登場する。
悪役令嬢に妨害されると攻略対象の親密度が下がってしまうのだ。
ライバルもまた個性ある方々が揃っている。
オズワルドの場合は、婚約者のアメリア・スチュアーデン公爵令嬢。金髪縦ロールで吊り目巨乳が特徴の、攻略対象同様に王道を行く悪役令嬢である。口癖が「オーホッホッホ!」というのまでテンプレだ。主人公に対する妨害はその高いプライドを前面に打ち出した気高き公爵家の令嬢として、追い詰められると陰湿な手段も持ち出すが、基本的には正面から正論を持って堂々と立ちふさがってくる。彼女の妨害イベントとかはざまあな爽快さだけでなく、コミカルな要素もたまにあるので、私も見ていて割と楽しいと思えるものだった。
ウィリアムの場合は、彼の率いる傭兵団、鮫牙師団の副長であるロザリー・ヒュレン。ウィリアムの参謀役を務める緑のショートヘアが特徴のクールビューティで、至って真面目。ウィリアムとの仲を妨害するのも主人公をアサシンかスパイと警戒しているからであり、アメリアと違い嫉妬というよりも仕事だから妨害しているという感じだ。最終的には和解できるし。仕事をそつなくこなせるクールビューティキャラの影響か、ライバルキャラの中では一番人気がある。
ブラッドの場合は、これまた婚約者のエリザベート・ミュラン伯爵令嬢。ピンク髮のヒステリックな人で、やる嫌がらせはアメリアが子供に思えるほど陰湿で残忍。彼女の妨害でデッドエンドというイベントも少なくない。
主人公を階段上から突き飛ばす、後ろからナイフでつき刺す、なんてこともする。この時点で妨害の度は超えているが、これでもまだ可愛い方だ。
ひどいものだと、賊に襲わせる(主人公が慰み者にされる場面までしっかり描かれているし)、寝ている間に誘拐して拷問器具にかけて殺す(ここもしっかりと複数の拷問にかけられるところを描写しているし)、食事に毒を盛る(主人公が口と目と耳から血を吹いて血管を浮き上がらせた形相となり倒れる死体の絵まで描かれているし)、馬乗りになったヒロインにナイフを滅多刺しにする(血走った目でヒステリックに常人には理解不能なこと叫びながらというおまけつき)、毒虫の蔓延る危険な谷底に主人公を巻き込んで転落する(壊れたマリオネットみたいな体の曲がり方をした死体となったエリザベートとかろうじて生き残った主人公に毒虫が集る場面までしっかりと描かれているし)などなど……。もはやただの殺人鬼を超えた、もっとおぞましい狂人の所業である。
恋愛パートだと突然の暗殺者!というイベント以外は基本的にデッドエンドはブラッドルートに集中している。しかもブラッドに嘘を吹き込むから、妨害の度に親密度を大きく下げてしまう邪魔者である。
ラストはブラッドに殺されるのだが、よりにもよってその場所が(ブラッドの)拷問部屋だし。しかもエリザベートもしっかりと拷問受けてからクビチョンパされて死ぬのだが、死んで終わりだった主人公の拷問シーンと違いエリザベートが拷問にかけられ続けて殺されるまでの様相が全部描かれているのでより恐ろしい。
当然の報いだとか、言えない。少なくとも私は言えなかった。そしてブラッドルートを解放してプレイしたことを生涯後悔し続けた。
その他、物語を彩る脇役も多数登場する。
アウラシュニカ王国現王でオズワルドの父、そして主人公の叔父であるアルベルト・ヨハン・アウラシュニカ。
主人公の母であり前王の側妃であったマリア・アウラシュニカ。
学園における主人公の親友、親密度を教えてくれたりするお助けキャラであるレイチェル・アーニッド侯爵令嬢。
戦略パートにおいて主人公の護衛を務め、初めての部下として入り隣で戦い続けてくれる相棒キャラ、トマス。
アメリアに付き従う取り巻き令嬢四天王たちこと、赤髪のリディア・セクトメラ伯爵令嬢、青髪のノーラ・ストレチア伯爵令嬢、茶髪のテオーリア・アルサンバルク侯爵令嬢、緑髪のメイビス・オルガ伯爵令嬢。
吸血鬼狩りを代々努めてきた闇の世界の住人より人々を守ることを使命とするエクソシストの一族の末裔にしてブラッドの宿敵、ロベルト・ソーンダイク。
かつてドラウグル大帝国の侵略により滅亡したロンゴミアド公国からの亡命者である公王妃でありアルベルトの妹、つまり主人公の叔母である大帝国への反乱軍指導者となる戦略パートのお助けキャラこと、シャリステラ・アウラシュニカ。
主人公の故郷を含めたアウラシュニカ王国西方を統括しており、女王の治政を宰相として支えてくれることになる頼もしい味方の貴族、マウハリオ・ジュノリアス辺境伯。
シャングロもその1人。
こいつの場合、恋愛シミュレーションのパートのエンディングを過ぎ攻略対象との結末を迎え、乙女ゲームとしては終わったも同然の主人公が女王となった後に登場するラスボスだが。
しかし、製作陣は何を思ったのか。
この、シャングロ。攻略対象に並ぶ美形なのである。
普通さ、隣国の侵略者を率いる軍勢の総司令官っておっさんが王道だろ?
その王道ガン無視で、ファンの間ではシャングロこそ真の隠し攻略キャラだ!なんて言われるレベルのイケメンとして描かれたのだ。攻略対象じゃないし、そもそも敵だし、同年代とはいえ登場は主人公の恋愛パートが終了して卒業してそして女王になった後ととっても遅いしで、絶対にありえない仮説だったけど。そもそも公式が否定していた。
隣国の巨大帝国の侵略者の指揮官。立場的には、主人公と彼女の取り巻くすべての人々の完全な敵だしな。
……私が今世を歩むことになったのが、そのシャングロの人生である。
戦略パートにしか出てこない隣国からやってくる侵略者の軍勢を率いる総司令官。
ラストは戦略パートで彼の率いる軍勢に勝つと、最後のイベントに登場する。
敗走したところを追撃してきた主人公とそのルートで結ばれた攻略対象の軍勢に追いつかれたという設定のイベントで、攻略対象ごとに違うが、共通してシャングロが主人公に討ち取られて終わる。
その最期はせめて刺し違えてでも女王を殺してやると奮起して立ち向かうが、王国軍の集団に叩かれ攻略対象に手段は違えどチャリオットから落とされ、剣を手に立ち上がるが矢を受け投げやりを受け、それでも執念で女王に近づくが届かず膝をつきそこをズブりだ。
うーん……哀れな最後だな、何度思い返しても。
まあ、侵略者という敵役ではあるけど正面から叩き潰しにかかり、返り討ちにあっても将軍として最後まで大帝国に貢献しようとした死に様は、イケメンも相成り攻略対象にしたいというプレイヤーの声が多数出るほどに人気を博したキャラだ。さすがにアウラシュニカの女王という立場の主人公とは設定上無理があったけど。
それが、今世の私。
……何度でも言うけど、乙女ゲームに噛み合ってないラスボスキャラだよね?
ゲームの本編に関わるの、恋愛シミュレーションパートが終わってからだよね?
乙女ゲームのキャラなのに、シナリオにここまで関わりを持てない存在となるとは……
敵の総大将を討ち取り、ドラウグル大帝国に今回も勝利をもたらしたことでシャングロモードから前世の人格込みのプライベートモードに切り替わってしまった。
そのため、現在そんな感慨に戦場で耽っている。
アホらしい。
父上ならば、一括し殴り飛ばすところだろう。
今は本国にいるだろうが。
そして味方の本陣から、先鋒の大帝国軍に撤収の狼煙が上がっている。
「……引き上げるぞ」
配下に命令し、私も撤収の準備に取り掛かる。
今世の相棒である雷蹄獣というこの世界に生息する魔法を扱える生物の一種で、雷を纏う犀という表現がぴったりな二頭の巨獣に引かれるチャリオットを操作して、味方の本陣の方面に進めた。
剣は血まみれ、鎧も血まみれ、相棒の蹄もチャリオットも血まみれ。
これらは全部敵兵の返り血だ。
私自身には傷1つなかったとはいえ、前世の私だったら仕事モードをオフにした途端に卒倒していただろう状況である。
今も殺人は慣れてません。仕事じゃなきゃ絶対にやりません。
うえ……さっさと胃の中身リバースしたい。こんな本音晒したら、大帝国陸軍元帥の息子の威厳が吹き飛ぶからできませんけどね。仕事モードで耐え抜きますわ。
乙女ゲームの世界で灰色どころか血の色の日々を過ごしている今世。
私は戦勝の報告を上げるために、友軍である北方方面軍の本陣に向かっていった。
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