第5話微笑がえし

〈23〉

「ここに遺体があったのよね。」

メイは明星千留美の首無し死体が見つかった離れの現場をひとりで調べていた。

日も暮れ始めた夕刻の事である。


「遺体はあったけど、首から下だけ・・・。本当に明星千留美さん?なのかしら?」


遺体の見つかった場所を見つめながら、メイは元上司であった故、佐藤警部の言葉を思い出していた。


「いいか、メイちゃん。事件現場では、信用しちゃならん物が3つあってな。」

「信用できないもの・・・。うーん、警部のでしゃばった推理とかですかね?」

「そうそう、ワシがでしゃばって的外れの推理で現場混乱とか、うぉーい!違う違う。えっ、なに、そう思ってたの?」

「まあまあ、警部、ここは引き分けということで。」

「なんだそれ、まぁいいや。現場で信用してはならない物はな、壊れた時計、開かない扉、首の無い死体だ。」


メイは故、佐藤警部とのそんなやり取りを、思い出し。

「首の無い死体・・・。故・・・。あっ、しまった。警部って死んでなかったわ。」

佐藤警部を勝手に死んだことにしてしまっていた自分を軽く責めていた。


その時だ。


メイの様子を、影から盗み見ている人物がいた。

メイはその気配を感じ振り返ると。


「はじめて見たときから決めてました。これが記念すべき100人目、100回目のプロポーズです。私と結婚してください!」


そう告白した人物。それはルミ子がツンデレでマザコンと評した尻紙ヨシタケであった。手には薔薇を抱えている。ヨシタケの魂の告白。


「あっ、キモイのでムリです。」


メイは満面の笑みでさらっと答えた。


「わかりました。でも、次に告白する人はある意味101回目になる訳だから、あの有名ドラマみたいに、絶対成功するような気がします。では。」


そういってヨシタケは、にこやかにその場を去っていった。



「あいつ、ツンデレでマザコンだけどスーパーポジティブだ・・・」


望遠鏡でウオッチしていたルミ子はそんなヨシタケを少し感心していたのであった。


〈24〉

「あの人達は一体何をしてるんだろうね。死人が出たっていうじゃないかい。」

清野は改めて尻神家や島の事を聞いて回っていた。最近では島民も尻神家には関わっていない様で、内部事情を知る者は一人もいなかったのだ。


「うーん…」

清野は考えながら、何度も頷いたり首を傾げたりしていた。


「尻神家は島の権力者ではないのか?この事件で一番得するのは…。ヤナダ君で良いかな…」

清野はスッキリした顔で歩いていると、いつの間にか高台に来ていた。この高い位置からは、尻神屋敷の全貌が眺められるのだった。


「トリックが…、綺麗過ぎるんだよなぁ…」

夕焼けに染まる尻神家の外環を眺めながら、清野は呟いていた。


「ふっー、やはり俺達は監視されている…、かな…。」

清野は一息付き、ゆっくり空を見上げていた。


「清野さーん、ここにいらしたんですね。」

丸竹が手を振りながら清野の元へ駆け寄って来る。


「丸竹君、よくわかったね。」

「屋敷から、清野さんが何か考えながら高台に登って行くのが見えたもので。」


清野は空を見上げたまま

「屋敷から高台の上まで見えるのかい?」

「ええ、上までは見えませんが登り道の途中までは見えますよ。」


しばしの沈黙が流れる。

「そっか、ところで丸竹君…」

「はい」

「君は【獅子身中の虫】って言葉を知ってるかい?」


清野はボソリと呟く

「えっ、ししし…」

丸竹は聞き取れなかったのか返答に困ってしまっていた。


「いや、いいんだ。気にしないでくれ。」

そういうと清野のは屋敷に向かって歩き始めたのだった。


〈25〉

「探偵さん、ひとつ事件とは関係ない話をしてもいいかな?」

夕焼けが沈み、夜の時間が始まりだす、この少しの合間に。


清野は大広間から離れに続く廊下に腰を下ろし、中庭をぼんやりと眺めていた。

そこへ何かを風呂敷のようなものに包み、それを手に現れたのは、尻紙キテレツであった。


「いいですよキテレツさん、この家には事件が多すぎて、私も少し頭を休めたい所でした。」

「フフフ、そうだよな、無駄話しというのも、たまには息抜きになるぞ。」


そう言うとキテレツは手に持っていた包みを開けた。


「何ですかこれは?黒くて丸い・・・ボーリングの玉のようにも見えますが?」

「フフフ、探偵さんにはそう見えますか。」


その謎の物体を撫でながら、キテレツは少し鼻で笑ってるようにも見えた。


「探偵さん、宇宙人って信じるかい?」


「唐突ですねぇ。宇宙人ですか、うーん。

私あまり宇宙人とか、アメリカの天狗とか、そういった類いの物は信じないようにしてるんですよね。考えがぶれるので。」


「まあ、探偵さんだもんな、そういうもんなのかな。

ところで、私が以前、ピラミッドの研究をしていた事は話した事ありましたかね?」


「いや、でも丸竹君から少し聞いてますが、えっ、まさか、その玉ってそこで?」


「あれからもう10年は経つのかな。」


キテレツは清野の隣に腰を下ろし、少し遠くを眺めていた。


「ピラミッドの研究チームには、世界各国からその筋の専門家達が集まってきてな。私と千留美君含め、全部で7人の精励が集まったと言う訳だ。そして・・・」


「ちょっ、ちょっと待ってください、千留美さんもピラミッドの研究物者だったんですか?」


「まあまあ、事件とは関係ない話なんだから、そこはいいよ。」


とキテレツは少しキレ気味で言葉を返した。


「そのチームに、目のつり上がったモンゴル人がいてな。そいつのあだ名は宇宙人って呼ばれてたんだ。

ある日、打ち上げの二次会でボーリング行ってな。

その宇宙人、ひとりだけマイボール持ってきて格好つけやがってさ、隙を見て盗んでやったのさ。ざまぁみろってんだ。そして、これがその時のボールなのさ。ハハハハハ。」


「ちょっとメモ取っていいですか?」


「メモに取るような話ではなかろうに。」


「ええ、まあ。」


清野はそのメモを破り、その場に残し去っていった。

キテレツはすかさずそのメモを手に取り見つめた。


(無駄無駄無駄無駄、時間の無駄ー!)


時が止まったような静けさの中、遠くを見つめるキテレツであった。


そして夜の時間はいつの間にか始まり、目頭を熱くしながら、ふと、キテレツは呟いた。


「千留美・・・」

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尻紙家の一族連続殺人事件 ごま忍 @SUPER3mg

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