第4話会いたかった
< 19 >
「うわ~!!」
虻内兄が派出所に飛び込んで来た。
「タカどうした!」
「ゆっ、幽霊!」
清野は呆れて帰ろうとしていた。
「崖の展望台までパトロールしてたら、女の首が置いてあったんだ!」
「首!?」
清野は足を止めて虻内兄に詰め寄った。
「ああ、そしたら首のない身体がその横をフラフラって歩いてるじゃないか。俺、驚いて発砲しちまったぜ。」
「首のない身体が歩いていた?そんなの関係ないね。」
「いやいや、関係あるでしょ。タカさんそれで?」
「その首なしが、首だけ残して崖に向かって落ちて行ったんだ。」
「落ちた?はっきり見たんですか?」
「俺も驚いて、ライト落としてしまったから。暗がりだったけど間違いない。」
清野は派出所を飛び出し展望台に向かって走っていた。その途中、丸竹が歩いて来ているのに気が付いた。
「どうしたんですか清野さん?」
「丸竹君、話しは後だ。展望台に向かう、一緒に来てくれ。」
息を切らしてにたどり着いた清野と丸竹が見たものは、展望台の中央にあるテーブルの上に女性の首が置いてあった。
「京子ちゃん!」
丸竹は叫びながら近づいて行く。
「丸竹君、この首の女性は行方不明の高玉京子さんでまちがいないんだね。」
「はっ、はい‥‥。どうして、こんなことに‥‥。」
丸竹は力なく答えその場に立ちすくんでしまった。首を確認した清野は、慎重に崖の先に行き下を見下ろしてみた。暗がりの中ライトの光に映し出されたのは、激しく打ち付ける波に漂うエプロンと洋服だった。
そして清野は崖の回りを調べはじめて、考え込んでいた。
「これは血痕か?首から出た血にしては少ないし、タカさんが発砲した時に首なしに当たったのだろうか‥‥。」
清野は再び地面を調べ考え始めた。
< 20 >
「あ~え~っと、虻内さ~ん、明星千留実さん殺害の容疑者が高玉京子さんでしたよね~?」
清野は額に手を添え、古畑任三郎っぽい口調で問いかけた。
「えーまあ、唯一の行方不明者でしたから~、そう考えるのが妥当です。」
虻内刑事も古畑っぽく切り替えしてみた。
そこは今泉だろ!と内心思いながら、清野は半ば呆れ気味に話し続けた。
「そうなると引っ掛かかるんですよねぇ。」
「はあ?」
「高玉京子さんの遺体を出す必要性についてです。普通、明星千留実さんを殺害した犯人ならば、唯一の行方不明者の高玉京子さんを犯人に仕立て上げたままにするはずなんです。そうなると、なるべく遺体を発見されない方がいいと思うんですよね。」
「たしかに…。それじゃあ、どういう事になるんだ?」
「えぇ…。死体を我々に発見させたのは、犯人側のアクシデントなのか?それとも出す必要性があったのか?そこにこの事件のカギがあるのかもしれません。
紙芝居の老人の件といい、謎がまた増えました…」
清野は更に頭を抱えていた。
するとそこへ、どこからともなく現れた一枚の画用紙が、風に揺られゆらゆらと落ちた。
「なんだこれ?」
虻内刑事はその紙を拾い上げた。
「家かなこれ?なんだろ?」
その紙はA3程度の大きさだった。そこには不気味な建物らしきものが描かれている。
「虻内さん、ちょっと貸して下さい。これがもし紙芝居だとすると、裏面に文章があるはずです!」
清野はその紙芝居らしきものを手にし裏面を見た。すると、案の定そこには文面が綴られてあった。
「寂しさはいつか切なさに変わって行くのだろう…。
それでも待ってる鶴亀旅館。
怪盗ヒゲゴリラこと山田健二より。」
ビリビリビリ…
清野はその紙を破り捨てた。
< 21 >
清野は尻紙家に戻り遺体を調べた後、部屋に戻り考え混んでいた。そこに
「探偵さん、ちょっといいか。」
尻紙スケキヨが現れた。のびのびになっていたゴムのマスクは取り替えたようだ。
「構いませんよ、どうしました。」
「君は我々がおかしい連中だと思っているのだろう?」
「まあ、皆さん個性的と言うか‥‥」
清野は頭をかいて苦笑いをした。
「尻紙家の当主にはなりなくないんだよ。私はそう考えている。」
「皆さん演じていると?」
「少なからず私はそうだがね。」
「どうして当主になるのを拒むのですか?」
清野がそう言うのと同時にスケキヨはゴムのマスクを脱いだ。現れた顔には、包帯で全体を巻かれている。口元にはボイスレコーダーの様な機械が付いてあった。
「私はとある事故で火傷をおって、本土の病院で治療していたんだ。口に付いてる機械がなけりゃ、まともに喋ることも出来ない。この島じゃ、ろくな治療など望めないだろう。嘘だと思うなら、包帯を取って見せようか?あまり綺麗な物ではないがね。」
包帯越しのスケキヨはニヤリと笑った様にみえた。
「わかりました、マスクを着けて下さい。」
清野に言われ、スケキヨはマスクを着けた。
「でも、他の人達はなぜ当主になりたがらないと思うのですか?」
「それは‥‥」
スケキヨは歯切れの悪い声で、話初めた。
< 22 >
「可愛い我が子や寝んねこや~
扉を何度も叩くから~
いつまでたっても寝やしない~
業火に焼かれた鬼のせいさ~」
スケキヨはおぞましい声で突然歌いだした。
「ねぇ探偵さん、知ってるかいこの歌?」
「いえ…、童歌かなんかですか?」
考え込む清野を見てスケキヨは不敵な笑みをうかべていた。
すると、どこからともなく歌声が聞こえてきた。
「可愛い我が子や寝んねこや~
電話をばんばんならすから~
いつまでたっても寝やしない~
馬鹿にされた坊主のせいさ~」
そこに現れたのはルミ子であった。
「これ、I T K 48(いたこ48)の新曲でしょ!私もしたわ、違法ダウンロード!」
「おっ話の合いそうなお嬢ちゃんだなぁ!」
ルミ子とスケキヨはハイタッチを交わし、呆然とする清野ををよそに二人で部屋を出てしまった
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