第3話振り向けば愛ラブYOU

< 13 >

【尻紙家】

尻紙助介(当主)


尻紙初音(長女)

尻紙清美(次女・故人)

尻紙スケキヨ(花婿候補)

尻紙薫子(三女)

尻紙ヨシタケ(花婿候補)


尻紙キテレツ(助介の弟)

尻紙孫助(助介の弟・故人)

尻紙丸竹(長男・養子)


【被害者】

明星千留実(花嫁)

【行方不明】

高玉京子(家政婦)

【使用人】

ヤナダ君(座布団運び)

【謎】

玉手箱否吉(村人)



「ん~、こんな所かな。」


清野は人物を紙に書き上げ、まとめ悩んでいた。


「清野さん、ご苦労様です。」

「あっ、丸竹君。遺体は?」

「はい、離れの隣にある広間に安置してきました。この島のお巡りさんは見ての通りですから‥」


丸竹は心なしか力なく答えた。


「ちょっとよろしいですか?」


初音の声が、部屋の入り口から聞こえ障子が開いた。


「丸竹さん、これからの準備しようと思うのだけれど手伝ってもらえないかしら。」

「はい」

「せっかくお客様に来て頂いたのに突然こんなことになってしまって、すいません」


初音は頭をさげた。


「いえ。初音さん尻紙家の方々は?」

「みな、一応動揺しております‥‥」

「一応?」

「この結婚式は尻紙家の跡目もかかっておりますので‥‥。これで御父様に何かあったら、どうなることか。」


初音は横を向き、暗い顔を見せた。


「少し喋り過ぎましたね、失礼致します。」

「初音さん、ルミ子君みませんでした?」


「あのお嬢さんなら、犯人見つけると言って海に泳ぎに行きましたよ。面白いお嬢さんですね。」


そう言うと初音は少し笑った。


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「お嬢ちゃん、見つかったかい?」


虻内兄が駆け付けて来たのは海岸から程近い岩場であった。そしてその岩場からルミ子がひょっこり顔を出しつぶやいた。


「ここには…無い…」


「どこにいきやがったんだ!まったく!」


虻内刑事兄は苛立ちを見せていた。


「ルミちゃーん!」


そこへ駆け付けて来たのは息を切らしたメイの姿であった。


「ハアハア…。さっき海の家の従業員さんから聞いたんだけど、最近この近辺で黒ずくめの男がうろついているらしいわ。清野さんに知らせに行きましょう!」


「えっ!」


するとルミ子は、今までに見せた事の無いような驚きの表情でメイの元に駆け付けた。


「ど…どうしたのルミちゃん、なにか心当たりでも?」

「本当は小学生なのに、黒ずくめの奴らに変な薬飲まされたら大人になったって…、前に言ってた!」

「えっ?それって清野さんの事?」


ルミ子は大きく頷いた。


「何となく聞いた事あるなぁその話。」


すると海岸沿いから海パン一丁の尻紙キテレツがやってきた。


「俺の記憶が確かならば、黒ずくめの奴ら、酒の名前をコードネームにしてるって聞いた事あるぞ。確か…ジンとかウオッカとか…」


それに対しルミ子は大きく頷きこう言った。


「奴らのコードネームは、シンルチュウとナマシボリレモンサワーよ!」


ルミ子は一目散に屋敷へ走って行ってしまった。


「よし!お嬢ちゃん!こっちの捜索はこの虻内ブラザーズに任せておけ!」


走るルミ子の背に向かい、虻内刑事が大声で呼びかけ、ルミ子は無言で親指を立て、それに応じた。



結局の所、黒ずくめの男の情報は事件とは全く関係無く、その後、ルミ子や虻内刑事達が探していたビーチボールも無事見つかったのであった。


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「玉手箱?知らないなぁ。」


清野は島の住民に聞き込みをしていた。


「子供達に紙芝居を聞かせていたお爺さんですよ?」

「島にはそんな名前の奴はおらんよ。それよりあんたどっかで見た顔だと思ったら、ピーチ姫連続誘拐事件を解決した髭の人じゃろ!」

「違います!」


清野はこれ以上聞くのは無駄だと思い住民を無視して海岸沿いを歩いて行った。


「住民誰に聞いても玉手箱と言う老人は知らないと答える。しかし丸竹君や尻紙家の連中は島の住民として接していた‥‥。」


清野は腕を組んで考えながら歩いていると


「探偵さ~ん!」


使用人のヤナダ君が叫びながら走ってくるのが見えた。


「大変で~す!島の中心にある池に死体が~!!あ~!」


ドサッ!


と言った所でルミ子が虻内兄弟をはめようと作ったかなり深い落とし穴に、ヤナダ君は落ちて行った。


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島の中心にある大きな池には人だかりが出来ていた。


「清野さんあれですよ!」


丸竹が池の中心を指差した所には、逆さになった足だけが伸びていた。


「よく見えないな~」


清野は目を凝らして見ようとしていたが、遠すぎて見えなかった。


しばらくして‥‥


遺体は引き上げられたが、島の住民も尻紙家の人々も知らない男であった。


「この身元不明の遺体、顔の損傷が激しいな。」

「清野さん、千留実のちゃんのことと関係あるんでしょうか?」

「ん~、これだけじゃ何とも言えないなあ。メイちゃんはどうしてそう思うんだい?」

「この遺体の状況は何か意味がある様な、ない様な違和感があったので。」


メイの言葉に清野は考え混んでしまった。



その時!



「助けて下さい!」


一同は声の方向を向くと、横たわるキテレツを抱き抱えたルミ子が顔面蒼白で叫んでいた。


「清野さん大変です。キテレツさんが!」

「メイちゃんほっといて大丈夫、あの二人セカチューごっこするって言ってたから。」


その後キテレツは起き上がり、演技に満足したのかルミ子とハイタッチをして喜んでいた。


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「虻内さんお願いします。」


「おう探偵さん!ちょいと待っててくれな…」


清野は派出所にいた。玉手箱の老人が話していた、数年前に起きた明星家での火災事件についての資料を虻内刑事に探してもらっていたのであった。


ガサガサ…。虻内は山積みになった段ボールから事件のファイルを探していた。ところが中々の量のファイルがある為、見つけられずにいた。


「小さな島なのに、随分と事件があるんですね?」

「全くだよ!俺一人では抱えきれないよ。だから、兄貴にもこの島に来てもらったくらいなのさ…。」


「そういえばお兄さんはどちらに?」


「今日もかよわき島民を守る為、せっせとパトロール中だ。」


「なるほど…。警察も大変ですねぇ。まっ、ちゃっちゃと、やっちゃって下さいね。」


清野はそう言いながら、ひとりテレビから流れるお笑い番組を見て爆笑しており、話半分の状態で接していた。


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「あったぞ探偵さん!これだ!」


汗だくの虻内を労う事なく、清野はそのファイルを奪い取り目を通した。



【◯月×日深夜】

明星家全焼事件

焼け跡から明星家の人々と思われる焼死体が数件発見される。出火原因は不明。

焼死体の状態がおもわしくなく、人物の特定が困難な状況であったが、唯一火災から逃げ延びる事ができた、明星一平の娘(明星千留美)の証言から、焼死体が明星家の人々の物と断定する。



「今から三年くらい前の出来事か…」


その後清野は、明星家の火災事故意外のファイルにも目を通していた。小さな島にしてはやたら事件の多いこの土地に、本事件に繋がるヒントが他にもあるのではと考えたからだ。そうやって隅々まで調べてしまう行動は、いわば探偵の性なのかもしれない。そこから生まれだす虫の息程度のささやかな情報が、事件の解決を大きく手繰り寄せる事を、清野は今までの経験上、知っていたからであった。たとえその作業に時間がかかろうと…



数時間後…



清野は、虻内刑事を鬼の形相で睨み付けていた。

それというのも、火災事件意外のこの島の事件は全て、虻内刑事による誤発砲事件だったからであった。すなわち隅々まで目を通したファイル全てが無駄であった。

遠くでピストルの銃撃音が鳴り響く。

パトロール中の虻内兄が、誤発砲をしたようだった。

「うむ、また事件だな。ファイル買いに行かなくては!」


そういう虻内に大量のファイルを投げ付ける清野であった。

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