19 ケチな人

 その老人は、毎朝納豆を食べる事にしていた。

 納豆は安い──そんな理由から朝食のレパートリーに加えてみたものの、その美味しさと手軽さに今ではルーティンになっていた。




「あっ」


 ある日老人はキッチンの冷蔵庫に、納豆が入っていない事に気が付いた。

 馬鹿だ、こんなミス初めてした。


「うーん、どうするか……」


 悩んだ老人は、ふと隣人の顔を思い出した。

 そうだ、こうなったら彼に分けて貰おう。

 思い立ち、老人は玄関の扉を開けた。




「すみません、納豆を1つ分けてくれませんか? 切らしてしまったんです」


 隣の家の玄関を叩いて用件を言うと、男はキョロキョロと目を泳がせた。


「ごめんなさい。今納豆切らしていて……」


 そう言い男は気まずそうに玄関を閉めてしまった。


「なんてケチな人だ! 昨日納豆を買っているのを見たぞ! あの人は独り暮らしなのに!」


 嘘を吐かれたと怒りながら老人は帰宅した。はああ、と大きな溜息を吐く。


「仕方ない、こうなったらセカンド冷蔵庫から出すか……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る