18 満点のご褒美

「パパおかえり〜、聞いて聞いてっ! 私この前テストで満点取ったの!」


 泊まり込みが続いた仕事を終え、家に飛んで帰って来た私を一番に迎えてくれたのは、笑顔で駆け寄って来た小さい娘だった。

 久しぶりに見る愛らしい笑顔に、自然と頬が綻む。


「おっ凄いじゃんか! 流石私の娘だ!」

「えっへん〜ねえねえご褒美ちょーだいっ!」


 力仕事をしてる為娘を抱えるなんて余裕だ。


「勿論良いよ。何が良い?」

「わ〜い! あのね私新しいオモチャが欲しい!」

「オモチャ? この前あげたのは?」


 頬を寄せて話す私達のすぐ奥から、今度は社長夫人である妻が顔を出す。目が合うと「おかえりなさい」と微笑みかけてくれた。


「この前のはもう壊しちゃったんですよ。この子ってば遊びすぎて逆方向に折っちゃって……信じられない」

「だって〜!」

「ははは、私の娘はヤンチャだな! 良いよ良いよ、会社に行って好きなの選んでおいで」

「やった〜っ!! パパ大好き〜!!」

「私も大好きだよ!!」


 声が自然と大きくなり、「耳元で怒鳴らないで~!!」と娘に怒られてしまった。


「ごめんごめんあっはっは!」


 それすらも楽しくて幸せだ。

 仕事の後の我が家は、どうしてこんなに愛しいのだろう。


***


「あの人って本当親馬鹿よね……」


 昨日の光景を思い出し、「はあ」と深い溜息を妻は吐いた。

 今日娘と社に来たのは、昨日約束した満点のご褒美の為だ。

 夫の会社──ラストダンジョン防衛社──はここ1ヶ月人間達が猛攻をかけてきて、社長兼魔王である夫はずっと社に泊まり込んでいたのだ。

 昨日ついに人間を鎮圧し、片付けもそこそこに夫は娘に会いに文字通り飛んで帰ってきた。


「皆さんご無事で何よりですわ」

「お疲れ様でーすっ!」


 清掃活動中の社員を労い、勇者を投獄しているという城内地下牢の場所も聞く。

 魔王の子である娘のオモチャは、社に攻めて来た人間だ。

 分解、解剖、実験台……様々な方法で娘は遊び、オモチャを壊して来た。

 地下牢には、傷だらけの勇者一行が拘束されていた。彼等は自分達魔族に気付くとヒッ! と怯え出す。


「後は貴女が選んで良いわよ」

「わ〜い!」


 娘は人間の元に駆け寄り、怯える聖女をナイフのように鋭い指でブスブスと突付き出した。

 楽しそうな娘に次期魔王の片鱗が見える。


「今度はどれくらい持つかしら」


 聖女の叫び声が響き出した地下牢で、妻はフフッと笑みを深めた。

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