7 有り難い仏像

 盆地にあるその藩は、税が重くて土も悪く、不作となるとすぐに餓死者が続出した。民の中には税の軽い隣の藩に夜逃げを試みるも、見付かって連れ戻される者も多い。




 そんなある日、常に飢饉に怯えている人々の間にある1つの噂が立った。

 それは山の上にある有り難い仏像に拝めば、どんな願いも叶えてくれる、というもの。なんでも昔、神隠しに遭った息子を返して欲しいと祈った母親の元に、無事息子が戻ってきた、という言い伝えがあるらしい。


 民はみなこの有り難い仏像に毎日毎日参拝したものだったが、祈りは届かずこの藩を飢饉が襲った。





 事件は日照り続きの夏の日に起きた。


「大変だ大変だあっ!」


 枯れた畑を疲れた顔で弄っていた青年の耳に、坊主の慌てふためいた声が聞こえて来たのだ。


「どうした……」


 畑は枯れ、みな腹を空かせ。それでも税は重い。この地獄にもうこれ以上大変な事など無いだろうに。


「藩主様がお亡くなりになられたんだ! 飢饉をどうにかして欲しい、と仏様にお参りに行った帰り滑落されたって話だ。この藩は暫く隣の藩が預かるらしい!」

「なんだって、そりゃ大変だ!?」


 坊主が慌てるのも無理はない。

 その話を聞いた青年は、息を切らす坊主を見てもう一度叫んだ。


「あの仏像が本当に有り難かったって話だろ!!」

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