邂逅・5 匠
時刻は八時を回った。ゲームセンターから出て、自宅の方へと足を向けた。その手には、公太郎の顔写真が載っているチラシを持っていた。
「今日で四日目か」
「ホント、どこ行ったんだろうね」
公太郎の母も捜索願いを出し、匠と彩葉も学校が終わり次第公太郎を探した。
しかし見つけることはできなかった。警察でさえも見つけられないのだから、ただの高校生が簡単に見つけられるわけがない。わかっていても歯がゆさが残った。
日が暮れて、家に帰るであろう学生やサラリーマンがたくさん歩いていた。ほとんどの人が早足で、その波に飲まれるようにして二人も早足になった。
レストランや居酒屋なども明るくなり、昼間とは違う賑わいがあった。都会ではないが、それでも駅前特有の賑やかさがある。
「スマフォの方は留守電にすらならないからな。電源を落としてるのか、それとも充電が切れたのか」
「こんなに連絡取れなくなるのなんて初めてだよね。子供の頃はスマフォなんてなかったから仕方ないけど、中学校からスマフォ持って、学校では顔を合わせて、連絡取り合って。それが私たちの日常だったのに」
「どうでもいい話して、そのために呼び出し出されたりもよくしたもんだ。特に彩葉になんだけど」
「どうでもよくはないでしょ? 遊びたいときに遊ぶ。今時の学生っぽいじゃない」
「今時の学生って、学生の身分で言うセリフじゃないだろ。それに遊ぶっていうか、コンビニで飲み物とお菓子買って、誰かの家でゲームしたり話したりすることの方が多かった」
「いいじゃない別に。そういうのも学生っぽいじゃない」
「学生っぽい、ねえ……」
彩葉にも匠にも、そして公太郎にも同性の友人はいる。それでも幼なじみとしての付き合いが長いぶん、三人で遊ぶことが多かった。
匠の友人はサッパリとした性格の人間が多く、彩葉や公太郎が幼なじみだと知っている。だから匠が「幼なじみと遊ばない」ときにしか誘いに乗らないことを許容していた。
だが彩葉の友人たちはアクティブで我が強い。彩葉の腕を掴み「いいじゃない。私たちと遊ぼうよ」と言う者も少なくなかった。悪い人間ではないのだが、単純に彩葉のことが好きなのだ。親しい人間が好かれているのだ、匠もそれに関して文句は言えない。
しかし、彩葉が三人でいたがるのには別の理由がある。少なくとも、匠にはそう見えた。
「なあ彩葉」
「どうしたの、あらたまって」
「そういうわけじゃないけど、お前って彼氏とか作らないの?」
ハッと、彩葉が息を飲む音が聞こえた。そんな気がした。
「また急だなあ。タクミっぽいと言えばタクミっぽいけど」
「どの辺が俺っぽいんだ?」
「話が飛んじゃうところ。いろいろ考えて、考えて、考えて。自分の中だけで納得して、それを相手に伝えようとするから話が飛んじゃう。一から話をしないからさ、話の理解度が相手と違っちゃうんだよ」
「前にも言われたような気がするな。すまん」
「別にいいんだけどさ。アレでしょ、学生っぽいってところからそうなったんでしょ? 学生と言えば、勉強、遊び、恋愛だものね」
「まあ、そんな感じ」
言葉が足りない匠のことを一番理解している。付き合いは十六年。同年代で最も長い時間を過ごし、最も匠のことをわかっている。それが彩葉という少女だった。
「恋人は、まだいいかなー」
「そんなこと言ってたら一生独り身だぞ」
「まだ高校生だからね? 全然大丈夫だよ。タクミはどうなの? なんで彼女作らないの?」
「必要がないから、かな」
「必要ないこともないでしょうが」
「欲しいと思わないこともないけど、女の子だったら誰でもいいわけじゃない」
「好きな人は?」
「いないこともない」
「じゃあアタックしにいきなよ」
「それもできない」
「もう! 煮え切らないな!」
「いいだろ別に。いろいろ事情があるんだよ、こっちにも」
「いろいろか。ふーん、なるほどねえ」
彩葉がニヤニヤと、なにやら嫌らしい笑みを向けてきた。
「その顔やめろよな」
「そうだよね、言いたくないこともあるものね。いやー気が付かなくて申し訳ない」
「なんだよ。なにがわかったんだよ」
「そうかそうか、タクミがあの人のこと好きだっただなんてなー」
「誰の話をしてるんだよ」
「んー、誰だろうなー」
「ムカつくな、そういう言い方」
彩葉を置いていくように駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「ヤダよ。ついてくるなら勝手についてこい」
「ひゃー、怒らせちゃったー」
ちらりと後ろを振り返った。
彼女の口ぶりはふざけたものだった。しかし、その顔はどこか寂しそうにも見えた。
なにを寂しいと感じているのかと気になる。けれど、それを口にする勇気はなかった。それを言ってしまったら、この関係が壊れてしまうような気がしたからだった。
ラウンド・アバウト 絢野悠 @harukaayano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラウンド・アバウトの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます