3日前の話

佐藤

I am not your destined person

真っ暗闇の谷底に堕ちてしまった。

周りを見渡しても光は一切ない。

3日前まで、私は彼と1本の糸の両端を握っていた。


 張られた糸は月日を重ねるこどに伸びていく。互いの糸を引き合って大地を駆け回る。私はその糸が永遠に伸びることに何の疑いも持っていなかった。

 片方の糸を持ったまま、糠喜びしている私は 2日前に彼から放たれた一言で気づいた。私の足は、あと1歩でも後ろに下がろうものなら体勢を崩して谷の底へ落ちてしまう──そんな所にあった。いや、私は私が気づくより遥か昔からそこにいたのかもしれない。

 何かを呟きながら、彼は糸から手を離す。

 私は彼が何を言っているのか分からないまま、谷底へと深く深く沈んでいく。


 地に足をついたとき、私はものを考えることができないでいた。ただ空虚を見つめ、呼吸をするだけの生き物だった。

 どれくらいの時間が経ったか分からない。私は、自分の状況にひどく驚いた。そして畏れた。先の見えない暗闇と、絶対に起きないと確信していた事が起きてしまったことに。


分からない。


 私はこれからどうすればいいのか。何が起こったのか理解できない。

 ただ、その左手は確かに中途半端な長さの糸を握っていた。

 糸を手繰り寄せ、私はようやく泣いた。沢山の嘘を身体に巻きつけながら、疲れて声が出なくなるまで泣いた。

 それから、空虚を見つめ沈黙した。

 谷底から這い上がろうとは思わなかった。見上げた空は確かに明るいけれど、広い大地で彼が別の糸を張り合わせている姿は絶対に見たくなかった。そう考えれば考えるほど、心にぽっかりと空いた真っ暗な穴は次第に広がっていき、そのまま辺りの暗闇と同化してしまいそうだった。

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3日前の話 佐藤 @ssaattoo

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