第9話難解キャンディーズ
【25】
「円茂の動機はあったんですよ」
先程から壁に寄り添い、黙って聞いていた明知が話掛ける。
「相変わらず、あなたは確信的な所をはぐらかす」
「フフッ…」
清野はニヤつきながら軽く笑った。
「今回の事件に二人の探偵はいらなかった。」
「それは我輩が言ったなり!ふざけたこと言うと色々手を使って消すなりよ!」
明知はニヤつき
「しばらくはレーザー撃てないのでしょ、それに僕にも色々コネがありますから。簡単には消せないと思いますよ。」
コロ助は振り返り、苦々しい顔をしながら笑っている清野を見た。
「コロ助君、そんな顔で見ないでくれよ。」
「ご主人様…」
「まあ、何もできなかった彼のせっかくの見せ場なんだからさ。」
「そうなりね、早く話すなり。とっちゃん坊や。」
「なっ、貴様!小林君笑い過ぎだ!」
隣でブービー小林が食べてたバナナを吹き出しながら笑っていた。
清野は椅子に腰掛けて黙って座った。明知の話を全部わかっている様に笑いながら。
「まあ、いいでしょう。全員が死んでしまった今、保険金は誰が受け取ることになるんでしょうかね?」
「そりゃ、天童…?ん?」
佐藤は言葉を詰まられた。
「自殺ですよね…」
星野が戸惑いながら、佐藤に話す。
「そう、自殺なんです。保険金は自殺だと支払われないんですよ。そこで円茂は殺人に仕立てる為、清野氏と警察関係者へメールを入れた。案の定金に目が眩んだ新人刑事さんとチビッコ君が乗って来た。都市伝説の殺人になるように。」
清野は笑いながら、残っていた缶コーヒーを飲んでいる。
「僕は枕投さんと雨降さんに雇われ、保険金の出所を探っていたんです。しかし、やられました…」
「すいません、黙っていて。私達は保険の調査員でして、高額の支払いになっているので会社から調査が必要と判断されていました。」
枕投が申し訳なさそうに、雨降も同じ様に深々と頭を下げた。
「この保険金ゲームの受取人は最後に生き残った人物に支払われます。ビルの時点で海家百合香は海家絵梨香として死んでいたんです。」
「入れ変わりだな」
「しかし、逆だったんですよ。この計画を知った海家百合香は絵梨香さんを殺害し、天童弘助の前では絵梨香さんになり変わった。天童弘助は最後まで気づかなかったんでしょうね。」
「何でそんなことをするんだ。」
腕を組みほとんど内容を理解していない佐藤が聞き返す。
「保険金の1人じめね!」
「そうです、早月さん。天童弘助が死ねば双子である百合香は絵梨香として生きる。死体が見つかっても、DNA検査をしても解らないと考えたのでしょう。」
「しかし、円茂が気がついたのね。」
「そうです、このままでは保険金は全部百合香にいってしまう。」
先程無視された佐藤は
「しかし、円茂はゲームに関係ないじゃないか?」
「この保険金ゲームの契約担当は円茂竹縄だったんです。わかりましたか、枕投さん」
「はい、これでわかりました。彼女は違う名前や戸籍でうちに就職していたんですね。だからわからなかったのか…」
枕投と雨降は契約書を取り出し、何かを確認した。
「そうです。そして円茂は絵梨香としてビルに来た百合香を殺した。」
無視され続けた佐藤は怒りながら
「円茂は百合香を殺して、何の特にもならないじゃないか!」
再び無視された。
「この契約書の一番下に円茂の名前が書いてあるんですよ。どこに書いてあると思いますか?」
そう言うと明知は、一枚の紙を一同へ見せた。
「あっ、受取人の所に円茂の名前がある!」
ヤスが紙を見て叫んだ。
「そう、ゲームの参加者には、自分の名前を記入していない契約書を渡していたんです。会社にはこの契約書を提出してね。後は犯人をでっち上げ殺人事件にしてしまえば、保険金は円茂のものです。」
メイは何かに気がついた様子で
「わかった、だから円茂は百合香を助けたのね!」
「メイちゃん何がわかったんだ!」
「そうですよ!先輩!」
「黙れ!クソブタ!犯人!」
メイは今まで見せたことのない顔をして叫んだ後、佐藤とヤスを完全に無視した。
「レノン氏へ自分の名前を出した時点で、遺体はみつかっていなかったんですね。でも、天童は絵梨香の遺体がある場所を自白したとニュース速報が流れた。それに焦った百合香はレノン氏に気がつかれ撲殺してしまった。自分が絵梨香として目の前にいるから。」
「円茂も焦ったでしょうね。ここで百合香が捕まってしまっては、保険金は自分に入ってこず計画は丸潰れになってしまう。しかし、運よく百合香は逃げ様とした。そこで円茂は手助けし百合香を逃がしたんです。その後円茂は部屋に細工をし、駆け付けた花上刑事にアメリカ天狗の話を吹き込んだのです。」
「そして、天童は絵梨香と思っていた百合香を助けに拘置所から逃走したんですね。」
「そうですね、早月さん。あなたはやはり警察関係者で、一番優秀な様だ。」
「しかし、レノン氏は一体何者だったんでしょうか?」
明知は困った顔をして黙ってしまった。それを眺めていた清野が立ち上がり
「レノン氏はソンソン共和国のエージェントだったんだよ。」
「我輩が監督辞任した国なりね。」
「エージェント?」
「百合香は保険金が入ったら、ソンソン共和国に高跳びするつもりだったのさ。その打ち合わせで、あのホテルを使ったんだ。」
清野が話始め様と思ったのは、飲んでいた缶コーヒーが空になっていたからだった。
【26】
こうして謎が謎を呼んだ、この一連の殺人事件は、ようやく全貌を明らかにしたのであった。
「探偵!やはりお前は名探偵だな!」
と佐藤が清野をもちあげる。
「そんなそんな、恐縮ですよ…。どちらかというとコロ助君のお手柄です。
でも、もしあれでしたら今後は名探偵とか呼んでもらってもいいですけど…。」
と清野はさらっと答えた。
「あ…、そうか…。まっ、でもたしかにネギ坊主が活躍したな!今回ばかりは誉めてあげてもいいかもな?」
「ええ、警部補。コロ助君は、ああ見えても自分の手柄をひけらかすタイプでも無いので、後で誉めてあげて下さいよ。」
と清野は佐藤に耳打ちし、佐藤はわかったと軽くうなずいた。
「ところで皆さん。一応署まで同行願いますか?
おい、ヤス!まだ外に警官残ってるよな?」
「はい、皆さんを送るくらいの人数は残っているはずです。」
「よし!では皆さん。参りましょうか。」
佐藤の掛け声の元、関係者は皆、ビルから退出していった。するとメイがある異変に気付いた。
「あれ?おサルさんの姿が見えませんが…。」
「小林君の事かね?フフフ…。トイレにでも行ってるんじゃないかい?おたくのチビ助もこれまたいないですがね?」
「あっ、本当だ?また二人でトイレかしら?」
明知が言う通りブービー小林の他、コロ助の姿が見えなかった。
そして皆が、ビルから出たその時だ!
外にいた警官達が一同に集まり、何かを見ていたのであった。
「へぇー、なるほど。凄いな!」
「たしかに犯人映ってるよ。」
そこには、
【名探偵コロ助とブービーの大手柄】
と銘打った、上映会が開催されており、犯人の決め手となった、円茂が扉を開けている場面を何度も何度も巻き戻ししながら上映をしていた。
さらに記念品としてアメリカ天狗グッズなるものを販売していた。
「あちゃー!」
一同は頭を抱えたが、この後更に頭を抱える出来事が続いた。
「はい、1万円からなりね!今お釣りくずしてくるなりから、少々お待ちなり!」
コロ助はそう言うと去り際、ブービー小林に
「円茂のおばちゃんのシーンが終わったら、巻き戻してまた繰り返しなり!くれぐれも早送りなんか押さないようにするなり!」
と注意を促していた。
ところがブービーは、 コロ助の指示通りの巻き戻しではなく、間違えて早送りを押してしまっていた。
すると、そこにはコロ助がケンタッキーの店員に話しかけている隙に、ブービー小林がケンタッキーを次々にバケツに入れ盗み出している映像が流れていたのであった。
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