第8話後ろは100だろう!?

【22】

「プーさんってハチミツ男の事だよな?奴が犯人という事か?」

「ハチミツ男なら署内で既に自殺したっすよ!」

「ええ、彼は死を選びました…。

ところで皆さん、お忘れの様ですが彼が何者か、はっきりしてませんでしたよね?」

「そういえばそうだな…。」


少しの沈黙の後、


「ハチミツ男が天童弘介という事か…。」


明知がそう切り出した。


「そうです明知さん。ハチミツ男の正体は天童弘介だったんです。整形したんでしょうね、捕まえても、わからなかったんでしょう。

彼の登場がAMERIKAのメッセージをアメリカ天狗の都市伝説へ結び付けさせ、我々をあざむかせる決定打となったのです。

もし彼が現れず、メッセージを冷静に解読していたなら、もっと早くに真相へたどり着いたはずですから。

なにせアメリカのスペルが間違っていますからね。それを書いたのが外国籍のレノン氏ならなおさらの事です。」


そして清野はホテルから拝借した都市伝説の本を手にし、


「そもそもこの地方にはアメリカ天狗と似たような都市伝説がたくさんあるのです。

この本を見れば明確なんですよね。


【イギリス河童】

【ブラジル落武者】

【イタリア閻魔】

【ポルトガルろくろ首】


まだまだありますよ、数えてみたら100以上はありますね。まるで都市伝説のワールドカップ状態です。

だいたいにして、アメリカ天狗の都市伝説と今回の事件では殺された人数もまったく合いません。今回の事件、どちらかというと…どこだっけ?」


清野はペラペラと本のページをめくり、


「あった、これだ。他のページに書いてある


【口裂けコロンビア女】


の都市伝説の方が人数的にマッチするんですけどね。

要するに都市伝説など関係なかったんです。

そうとも知らず犯人のワナにかかった人は、まだまだ死人が出ると思っていたようですが…」


と清野は明知に視線を送った。明知は視線をそらし軽く舌打ちをした。

そして清野は突然あるひとりの人物に向かい歩みはじめた。


「警部補、思い出して下さい。そもそも、はじめにアメリカ天狗の混乱を招いたのは誰ですか?100とある都市伝説からミスリードへ結びつけたのは誰ですか?」


少しの沈黙の後、


「あっ!俺っす!」


花上がそう口にした。


「そしてこの中で、ビルでの一件でアメリカ天狗から呼ばれていなかったのは誰でしょうね?」


清野はその人物の肩に手を乗せ、


「アメリカ天狗はあなたですね。」


と声をかけた。


【23】

「円茂竹縄さん、あなたが犯人アメリカ天狗です。」


一同は驚愕した。


「円茂さん!あなただったんですか?」


隣にいた星野花瓶が驚きの表情でそう声をかけるが、つかさず円茂にツバをかけられた。


「あっ!そういえば最初、このおばちゃんからアメリカ天狗の事言われたんだった!」


花上はそう言った。


「おいおい探偵、冗談はよしなさいよ。仮に私がそのような事を言ったとしても、それだけで犯人と決めつけるのは強引じゃないのかい?」


「いいえ、あのメッセージを見ただけでアメリカ天狗とは、普通口には出せませんよ円茂さん。ではもうひとつ伺いましょう。あなたはビルでの一件でアメリカ天狗から招待されていませんよね。これはどう説明できますか?」


「それもおかしな話じゃないか探偵君。招待されていない人が犯人なら、そこのブタゴルファーだってラーメン屋だって招待されていないでしょ?」


「では、あなたは招待されていない訳ですね?」


「そうだ!関係ないからな。ビルの事など一切知らないさ。」


「あれぇ?変ですね?」


「何がだよ!いい加減にしないとツバかけるよ!」


「たしかにブタもラーメン屋も招待されていませんでした。しかし、何故それをあなたが知っているんですか?あなたが招待状を送ったからじゃないですか!」


円茂は言葉を詰まらせていた。


「今回のビルでの一件…。これから事件は続くのか、という時にあっさり出れちゃいましたよね。あれは犯人がもう、目的を果たしたからです。

海家絵梨香の殺害の事です。

ビルから脱出できた後、そのビルを完全包囲しましたが犯人は見つかりませんでしたよね。

実は内部に犯人がいたのか?

それとも秘密の出入口から逃げ出したのか?

とも考えられましたが、答えは極々単純な事だったんです。」


「ん?どういう事だ探偵?」


「犯人は先にビルから逃げたんですよ、我々よりも先に…。

まっ、厳密に言うと逃げようとした所を見られてしまい、誤魔化していたんですけどね。」


清野はそういうと、コロ助に内蔵されていたビルでの映像を早送りし、ある場面でそれを静止させた。


「はっきり映っているじゃないですか円茂さん…。いるはずのないあなたが!」


静止した映像には、ブービー小林とコロ助に、ビルの出入口の扉を開けてあげている円茂の姿がはっきりと映っていた。


「残念でしたね。まさかコロ助君に録画機能がついてるなんて分からないですもんね…。

あなたはアメリカ天狗になり、ビルに関係者を集めたのです。海家さんにはおそらく、より事件をアメリカ天狗の都市伝説へとミステリードしていく為にとでも言って参加させたんでしょう。」


「もういいさ!はぁ…。サルとロボットと思ってな、油断しちまったよ。

ほれっ!ブタ祭り!はよ捕まえんか!」


円茂は佐藤に向かい両手を差し出した。


「ふむそうか。では円茂竹縄。殺人容疑で逮捕する。」


と佐藤が手錠をかけようと近づいたのだが


「やっぱり最後くらい若いあんちゃんに捕まえてほしいわ。」


と言って花上の方に歩き出し、ついでに佐藤にツバをかけた。


「おっ良く見ると、私好みの好青年だねぇ。」


と円茂は花上にすり寄って来たのだが、


「もう年上は勘弁っすよ!」


そう言うと花上は一目散に逃げ出してしまった。


「そういえば動機はなんなんだ?やはり保険金絡みで海家絵梨香を殺害したのか?」


連行されていく円茂に佐藤は声をかけた。


「ふん。まあそんな所ですよ…。」


円茂は最後に怒りを噛み殺したような口調でそう答え、連行されていった。


【24】

「探偵、金に目が眩むと、人間怖いもんだな。

海家絵梨香も不用意な一言がなければ、アメリカ天狗だのなんだの、ここまでの事件にはならなかったのにな。我々も不用意な言動には日頃から気をつけなければならないな。たまにワシの事ブタとかいうしな。」


「ブタだなんて言ったことありませんよ警部た補。まっそれより、絵梨香と名乗ってしまった不用意な一言の件なんですが、不用意すぎると思いませんか?

実はあれ、海家絵梨香がわざと間違えたのかもしれませんよ。」


「わざと間違えた?わざと怪しまれるように本名を名乗ったという事か?またわからなんな?」


「天童や円茂さんが絵梨香さんだと思っていた人物、本当は百合香さんだったとかね。

自分が姉の絵梨香さんの身代わりに殺される事を知ってしまい、絵梨香さんに成りすましていたのかもしれません。

わざと間違え天童や円茂さんに協力を仰いだふりをし、復讐を考えていたのかもしれません。

円茂さんの本当の動機はそのあたりかもしれませんよ。」

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