第3話回転禁止の青春

【7】

部屋に入った清野達が目にしたもの。その不可思議な映像に一同は騒然とした。


「はちみつうめぇー!」


テレビから語りかけるその人物。それは拘束されているはずのハチミツ男の姿であった。


「さっきの花上さんからの電話。ハチミツ男が自殺したって言ってたと思いますが…」


腕組みをする清野にメイが耳打ちした。

テレビに映るハチミツ男はハチミツのおいしさについて語りだし、手にしているハチミツの壺は死んだお婆ちゃんの形見の壺だから命よりも大事なんだと熱く語っており、その感動秘話がルミ子とコロ助の涙を誘っていた。

そしてハチミツ男は急に声のトーンを変え、


「皆さんはここ数ヶ月で起きた一連の殺人事件をご存知かな?

一人目に殺されたのは、奏弘美(かなでひろみ)。

二人目は、野比スネ夫(のびすねお)

三人目は、海家絵合香(うみのいええりか)だ。

三人目の事件は天童弘介が自白したようだが、私は残り二人の事件については別な人物の犯行だという確証を持っている。」

「そしてその人物は君達の中の誰かだ!」


興奮したハチミツ男は手に持っていたハチミツの壺を空手チョップで一刀両断した。


「おばあちゃんの壺~」


絶叫するコロ助とルミ子をよそにハチミツ男は続いてこう言った。


「犯人さん。早く名乗り出なければ全員を殺す事になりますよ。」

「これはVTRだね」


清野が久しぶりに真面目な顔になりメイに話かける。


「じゃあ、ハチミツ男は…」

「たぶん、自殺したのはホントだろう」

「でも…、なぜ?」

「たぶん、今喋っているハチミツ男は天童弘助だと思うよ。声は変えてるけど」

「えっ!」

「今言ったじゃないか、3件目は自白って。たぶん一連の反抗は、天童弘助に罪を着せたアメリカ天狗の仕業だろうね」

「でも、何でこんなことを?」


メイが答えると同時に、ドアが破られ佐藤とヤスが雪崩れ込んできた。他の人は横からその様子を見ている。


「先輩!大丈夫ですか!」

「お前ら大丈夫か!」


佐藤が怒鳴っているが、横から明知が割り込んで来た。


「先程、 海家百合香さんがアメリカ天狗によって殺害されました。皆さん集まったのですが、あなた方だけ来なかったんです。聞こえませんでした?」


明知はニヤリとしながら話し掛ける。


「えっ、清野さん聞こえましたか?」

「いや、聞こえなかった」


メイはルミ子を見たが、大きく首を横に降っている。さっきまで一緒にいたコロ助はいなくなっていた。


「でしょうね、この部屋の壁だけ防音になってる様ですから」

「明知さん死因は?」

「早月さんでしたっけ、警察関係者では貴方が一番まともみたいですね」

「何!お前どういうことだ!」

「そうだぞ、警部補はあのミート君誘拐事件を解決したんだぞ!」


その時!


ガツン!ガツン!


佐藤とヤスの頭上からタライが落ちてきた。二人はその場に倒れ込む。


「ミート君バラバラ…」


ルミ子は清野の後ろに隠れ、ほくそえんでいた。それを無視して明知は話始めた。


「死因は絞殺。天井か排気口から輪にしたロープを垂らし、首にかけたら一気に引き上げたってとこですね。あともう一つ…」

「もう1つ?」

「死後2ヶ月くらいの遺体が転がっていたよ」

「遺体が!」


メイは驚きの表情を見せていた。


「これで犠牲者は5人、いやハチミツ男の自殺を入れれば6人か…」


清野は口元に手をやり呟いた後、何か考え始めている。明知は壁をさわり調べながら部屋を見て回っていた。

その時、部屋のテレビが再びついた。一同の視線は釘付けとなる。


「みなさん、ごきげんようナリ」


そこにはなぜかコロ助が、マクドナルドのドナルドのメイクをして映っていた。


「清野さん、相変わらず貴方の助手は個性的ですね」


明知は小馬鹿にする様に清野に笑い掛ける。


「明知さん、貴方の相方さんも相当面白いですけどね」


コロ助の後ろにはカーネルサンダースの格好をした、ブービー小林が立っていた。


【8】

「おい探偵!隠し階段を見つけたぞ!」


佐藤は別な部屋で(紳士)と書いてある地下に潜る謎の階段を見つけ出したようだ。


「もしかしたら、このビルから脱出できるかもしれないぞ!よし探偵、ここはワシに任せておけ!」


そう言うと佐藤は地下の階段に一人で降りて行った。


「みんなそろそろお腹すいた頃ナリね。」


先程まで画面に映っていたコロ助とブービー小林がやってきた。ブービーはケンタッキーの入ったバケツを抱えている。


「さあみんな。我輩のおごりナリ。」


と二人は皆にケンタッキーを振るまいだした。


「ってこれ。どうしたの?」

「実を言うと…悪魔指揮魔術団の事業が大成功して、だからおごりナリ!」

「いやいやコロ助君、そこじゃなくて…。ケンタッキーはいつ買って来たのかって事だよ。」

「あっ、そっちナリか…。それなら今さっきナリ。ビル出てすぐの所にあるナリからな」

「おいおいチビ助!という事はビルから出れたのか?」


興奮気味に枕投大吉はコロ助に詰めよった。それに対し、


「掃除のおばちゃんに開けてもらったナリよ、若造君。それと言葉には気をつけろよ。レーザーが残ってたら死んでたぜ。」


コロ助は枕投の肩をポンと叩いた。


「出れたの?それならそうと、こんな所早く出ましょうよ!」


雨降七美がいち早く部屋を飛び出していった。


「あ~、でも十億は…」

「ちょっと星野さん。あんなの嘘に決まってますよ!何を悠長な事言ってるんですか!人が殺されているんですよ。早く早く!」


ヤスが星野を引っ張り出した。


「清野さん、我々もとりあえず出た方が良さそうですな。」

「はい、明智さん。色々不可解な事はありますが…現場の方は警察が来てからにしましょう。」


こうして一同は案外あっさりとビルから抜け出す事が出来たのであった。

たどり着いた先が男子トイレで、ブービー小林が捨てたであろうバナナの皮により、またスッ転んでいる佐藤ただ一人を除いて…。

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