第2話空とビルとの間には

【5】

「皆様今日はお忙しい中お集まり頂き光栄でございます。」


アメリカ天狗から届いた謎の招待状。

今夜このビルで最高賞金10億円の【天狗ダーツ】が開催されるという。

集められた面々に向かい、このイベントの主催者と語る物が挨拶を始めた。

とは言っても、肝心の姿は見せない。館内のスピーカーからその声だけが流れている。


「拡声器を使っていますね。姿を見せないのは何か理由があるんですかね?」

「たしかにこれじゃ男か女かもわからんな。」

「録音テープを流しているのかもしれませんよね?」


怪しむ清野達とは対象的に、ルミ子とコロ助の目は尊敬の眼差しでキラキラ輝いている。10億を出すという主催者に気に入られようと、天狗Loveと書いたハチマキを巻き、お手製の団扇をふりながら話を聞いている。そしてそこには清野達以外にも幾人かの招待客がいた。


「清野さん、あれ?」


と早月が目をやる先に、赤い髪が印象的な二十歳前後の女がいた。


「あの子、河川敷の事件の被害者の妹さんですよね。天童弘助が自白した…。」

「海家百合香(うみのいえゆりか)さん、でしたっけ…」


清野は腕組みをして考えていた。


さらに…


「あっ!警部補にも招待状来たんですね。」


佐藤に声をかけたのは新米刑事のヤス・ポートピアだった。招待状が届いていない佐藤は新米刑事にも負けたかとヤスを睨み付けていた。


そしてさらに…


「あっ!刑事さんご無沙汰です。あなた方がいるって、これって事件なんですか?」


佐藤達がいることに驚きを見せるその男は、はひふへホテルの支配人、星野花瓶だった。


「あっいや、今日はただお呼ばれしてきただけだ…。プライベートみたいなもんだ。」


お前は呼ばれていないくせに!とにらみつける一同の目をよそに、佐藤は会話を続けた。


「星野さん?他の方も連れてるんですか?」

「ええ、これでも一人来れなくなったんですけど…」


星野は同じホテルの従業員である枕投大吉(まくらなげだいきち)と雨降七美(あめふりななみ)を引き連れていた。

その時だ!


「キエー!」


佐藤が星野とのやりとりを続ける中、スピーカーから主催者 の怒鳴り声とも言える奇声が聞こえた。


「なんだなんだ?」


そしてスピーカーの人物はこう言った。


「人数が合わないですな!まさか招かれざる客がいるんですか!」


いきり立った主催者の怒声が館内に響き渡った。


しかしその刹那!


ルミ子とコロ助は、目にも止まらぬスピードで佐藤をロープで縛り上げこう言った!


「心配なさらず殿!10億を狙う不届き者、招かれざるブタはこやつでございます。どうか気を悪くなさらずように。」


と土下座で応対した。


「まあ、いいでしょう。招待状に記載しなかった私どもにも責任がありますので。それに四名の欠席者がおられますから」


スピーカーからの声は冷静さを取り戻し淡々と喋り始めた。


「その四名の欠席した理由は、もうこの世にはいないからですか?」

「それは皆様のご想像にお任せ致します」


【6】

部屋の角にいた男がどこかに向け話し掛ける。一同の視線はそちらに向けられる。スラットしていて紳士の様な男は歩み寄ってきて笑みを浮かべた。


「お久しぶりですね、清野さん。トム&ジェリー窃盗事件以来ですね。皆様初めまして、探偵の明知龍太郎(あけちりゅうたろう)と申します。」

「どうも」


清野は軽く会釈する。


「ご主人様、この男なんナリ」


コロ助の目が赤く充血し光だした。


「この小説に探偵は2人もいらないナリリリリッ!」

「小林君!」


コロ助の目からレーザービームが発射された。明知の前にマスクを被った猿がマントでガードする。ビームは弾かれ紐で縛られた佐藤の横を真っ二つにした。


「清野さん相変わらずですね。貴方の所は」

「いや~、それ程でもないナリ」

「コロ助君、あいつたぶん誉めてないよ。しかもレーザー使っちゃったし。」

「ごめんナリ」


コロ助は舌を出して可愛いポーズをしていた。


「皆さんよろしいでしょうか?それでは


海家百合香様

星野花瓶様

清野耕助様

早月メイ様

ヤス・ポートピア様

明知龍太郎様

天童弘助様


それ以外の招待状をお持ちでない方は


枕投大吉様

雨降七美様

納谷ルミコ様

コロ助様

ブービー小林様


皆様はサポートとなりますのでご了承下さい。それでは【天狗ダーツ】を行います」

「天童弘助!あいつもここにいるのね」

「早月さん、探し出して逮捕しましょう」

「ヤス君は警部補と一緒に」

「はい!頑張ります!」


その時メイの携帯が鳴った


「花上さん、どうしました。えっ、ハチミツ男が自殺した!もしもし…!もしもし…!」


再びスピーカーから声が流れる


「これよりゲーム終了まで外部との連絡は一切取れません。こちらから妨害電波を流しております。尚、ビル全体をロックさせて頂きますのでこの階より下には行けません。」

「何だって!星野さんどういうことですか!」

「そんなこと聞いてないです」


枕投と雨降が星野に詰め寄って胸ぐらを掴んでいる。


「【天狗ダーツ】は生き残りのゲーム、皆様アメリカ天狗に殺されない様気をつけて下さいませ。そして生き残る為もがいて下さい。それでは…」


そう言うとスピーカーから声が途絶えた。スピーカーの声が途切れた時メイはある異変に気付き、明知智竜太郎に問いただした。


「あの…お猿さんの姿が見えないのですが…」

「小林君の事かね?フフフ…、トイレにでも行っているんだろう?」


明知は含み笑いをしながら答えた。


「それよりも、おたくのロボット君もいないようだが…。何を企んでいるのやら…」


回りを見渡すメイだったが、確かにブービー小林の他、コロ助の姿は見当たらなかった。


「お言葉を返す様ですが明智さん。コロ助君もトイレじゃないですかね…。フフフフフ…」


清野はにやつきながらそう切り返した。

すると部屋の奥にあるカーテンが突然開き、そこにはダーツの矢とありとあらゆるキャラクターのお面が置いてあった。

そして壁には

【矢を取り、お面をひとつ付けて下さい】

とのメッセージが記されていた。


「そうか!この矢をあのブタゴルファーに投げても、お面を付けとけば誰が殺ったかを、あやふやにできるという事なのね!」

「いや…、多分違うと思うよ。ルミ子君…」

「まっ、とりあえず指示通りやりましょう。なにせ10億がかかっていますから」


ヤスが先導してお面を選び出し、それに触発された他の招待客達も、お面を手に取り出した。

アメリカ天狗の思惑通りなのか?事は少しずつ進んで行くのであった。ちなみにコロ助とブービーは、トイレに行っていただけの様で普通に皆の元に戻っていた。


「しかし、このダーツの矢に書いてある数字はなんでしょうね?」


メイが矢を手に取り眺める。同じく明知が矢を取り眺めながら


「僕が察するに、これは10億円の抽選番号さ!アメリカ天狗LOVE!」


とルミコが横から叫ぶ。


「突っ込みたくはないのだが、僕の真似をしないで頂きたい。」


明知は呆れながら、顔に手を当て答えた。


「ルミコ君、これはビルの部屋番号だね」

「清野さん、どういうことでしょうか?」

「矢を持って、書いてある番号と同じ部屋へ行けということだろうね」


清野とメイは矢を眺め話している。


「悪いが君達に付き合っている暇は無さそうだ。僕は僕で捜査させてもらう。小林君行くぞ!」


明知は矢をひとつ取って歩いて行った。ブービー小林は部屋の角でどこからか取り出したバナナを食べていた、その皮を投げ捨て明知について行く。


「探偵、どうなってるんだ!」


縄をほどき、走り寄って来た佐藤はバナナの皮で滑り転がる。それを見たヤスが佐藤に近づき


「警部補、大丈夫ですか!僕達で事件解決しましょう!ちなみに背中のアザは蝶です」

「ヤス、俺を尊敬してくれるのはお前だけだ!一緒に頑張ろうな!」

「はい!」


いつの間にかこの部屋には、2人だけで他の人はいなくなっていた。

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