ガンダルヴァの城

槌目つちめ模様の春の海に、色とりどりのほのおが踊る。

海のきわに、幻の城が立ち現れる合図だ。


ありとあらゆる国の建築様式を混ぜ合わせたような巨大な城は、目を離した場所から収斂しゅうれんしていく、捉えどころのない複雑で有機的な装飾に彩られている。


「ただの光の屈折だ」


「俺は潜ったことがある」


村一番の漁師の男の言葉が沈黙を生む。


輪郭を歪ませる水中の陽炎かげろうと、回転しなから水底から浮き上がってくるいくつもの泡の下、男が見たものは巨大な貝だったと言う。


すべては、ひんやりと滑らかな砂に埋もれて、巨大な貝が見る、美しい夢だった、と。


(夢中で蜃気楼の城をデッサンする建築家の絵)

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