80号カンバス
「私は貴方の思っているような人間じゃない」
雪白の言葉はいつも届かない。
「見たいものしか見ないなら、そこに私がいる必要なんて」
絵の具と巨大なカンバスを取り出す雪白の仕草は手慣れている。
そして相手の目の前に等身大の自画像を立て掛けると、後ろからそっと抜け出す。
薔薇紅に手を引かれた雪白の姿が見えなくなっても、残された雪白の完璧な微笑みに見惚れる人々は、誰一人すり替わりに気付くことはない。
使い終わった絵は家の裏で燃やされ、
夜に沈んでいた庭の花々を照らし出す。
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