霧の中のユニコーン

まるで誰かがこぼしてしまったミルクが、とめどもなくあふれ続けているみたいに、村中に真っ白な霧が満ちている。


「もし、すぐそばにユニコーンが隠れていても、この霧じゃ分からないね」


雪白が伸ばした腕の先は、ひんやりした霧に溶け込むように見えなくなった。


幻の生き物がいないと証明することは難しい。

いると証明することと同じぐらいに。


「きっと、夜の闇の中に潜む黒ヒョウと同じぐらい見つからないわね」


「黒ヒョウって女の子をたべちゃう?」


「大丈夫よ。ミルクみたいな霧でお腹いっぱいだわ」


何かを思いついた様子の薔薇紅がにんまりと笑う。


蹄鉄のお守りを手にした悪戯好きな少女たちの存在は、夢とうつつの境界を簡単に無くしてしまう。


乱れた蹄のあとが残る玄関の鍵をかけていると、暗闇の中から低く長く、満足げに喉を鳴らす音が聞こえた気がした。


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