見えない薔薇
東の谷には、いつも真珠色の霧が立ち込めている。
霧の中を歩いているうちに、どこからともなく漂ってくるのは、甘やかな薔薇の香りだ。
進むほどに霧は深くなり、薔薇の香りはいっそう艶やかに匂い立つ。
谷の中で花を見た者は誰もいないというのに。
見えない赤薔薇。
見えない白薔薇。
見えない野ばら。
「霧の中には、透明人間の村があるのよ」
そんな噂が、まことしやかにささやかれている。
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