雪白のこと

「見えないんじゃなくて、見ようとしないんだと思うの」


草の上に座った雪白の手が、地面に近い場所で静かに往復する。

まるで見えない生き物を撫でるみたいに。


「見えないものは『無い』にしてしまったほうが楽だから」


雪白のいだ青い目に、一面の野原は、どう映っているのだろう。


かごの中のサンドイッチを取ろうとした私の手の甲に、何か柔らかくてふわふわしたものが体をこすりつけた。


黄色い花を伸ばすタンポポの隣で、雪白の手が、何か見えないものを摘む。

ぷつり、と、何かがちぎれる音が聞こえたのは、気のせいだろうか。


誕生日のロウソクを吹き消すような吐息と共に、私の頬を無数の見えない綿毛が撫でていった気がした。

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