溺れる蝶

錆びついた蝶番のせいで、窓には奇妙な癖がついていた。

力を込めて押すと、窓は一度閉まりかけてから大きく左右に開いた。

ためらいがちなその動きは、花から飛びたとうとする蝶の羽を思わせた。


そして窓から入り込んだやわらかな光が部屋に広がる。

テーブルの上には、すみれの砂糖漬の入った丸い箱が置かれていた。

箱の内側は、足を踏み外した蝶が溺れそうなほどの深い青紫色で満たされている。

薔薇紅は砂糖漬を摘まみあげると、目利きの宝石商のように光に透かした。


「食べないの?」


「ずっと、どんなに美味しいか想像していたの」


砂糖漬の表面には、昼の光にも溶けることのない霜がきらめいている。


「食べなければ、美しい憧れのままとっておけるでしょ?」

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